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【中編】通達改正を受け、生命保険商品に関する適正表示ガイドラインも改正に

■ 法人向け保険販売におけるさまざまな問題点に対応

 今年6月28日の法人税基本通達の改正の発遣にともない、6月20日と7月5日の2回にわたって「生命保険商品に関する適正表示ガイドライン」(生命保険協会)が改正されました。
 このガイドラインは、生命保険会社が生命保険商品に関する表示を行う際の参考のために、生命保険協会が2003年10月に策定し、以降必要に応じて改正されています。生命保険協会では、このガイドラインは拘束力を持つものではないとしていますが、各会社においては、自己責任を前提として、このガイドラインの内容を参考にして、表示媒体における商品の特性に応じた適正で適切な表示を確保することが求められています。
 なお、このガイドラインは、当初は一般的な商品全般を対象とした内容でしたが、その後、銀行による保険販売についての留意点や、「年金支払開始時点の基礎率等に基づき年金額が定まる個人年金商品」についても年金額などが問題点としてクローズアップされると、その部分に対する基本対応スタンスを追加するなどといった改正が順次行われてきました。
 今回のガイドライン改正では、法人税基本通達の改正を機として、法人向け保険販売におけるさまざまな問題点がクローズアップされたことから、「法人向けに関する留意点」として、法人向けの商品全般に対するガイドラインが示されました。

■ (1)商品の目的

 募集用資料などにおいて、法人の生命保険の加入は、事業保障資金等の財源としてご活用いただくための「保障」などを目的とすることの明記が必要です。「法人向け保険商品は、被保険者様に万が一のことがあった場合、保険金等を事業保障資金等の財源としてご活用いただくための、『保障』等を目的とした保険商品です」などのように、お客様が理解しやすいように表示することとされています。
 最近では、利益繰延べをその加入目的の第一とするような「財務」的な販売が多くなっていたことに対して、「保障」を目的とした加入をお勧めするという、生命保険募集の本来の姿に立ち返って販売するというスタンスをしっかりと表示しなければなりません。実際に販売する場面においても、このスタンスはお客様にしっかりと説明し、納得いただくことが必要になります。

■ (2)税務上の留意点の明瞭化

 税務上の留意点を極力目立つ箇所に記載することも併せて求められます。例えば、○○年○○月現在の税制・関係法令に基づいており、今後取扱いが変更になる場合があることや、今回の法人税基本通達の改正に合わせ、最高解約返戻率等の経理処理に具体的に必要となる情報を募集用資料に記載することが求められます。
 今回の法人税基本通達の改正において、定期保険や第三分野保険で最高解約返戻率が85%超となる場合は、最高解約返戻率だけでなく、最高解約返戻率後毎年の返戻金の増加額が年換算保険料の70%を超える期間や、最高解約返戻金額の時期なども経理処理を行う上で必要な情報となりました。各生命保険会社は、これらの情報を書面でお客様に表示できるように対応されるとは思いますが、担当者が実際の営業の場面でお客様に説明する際にも、これらの情報に関する数字や時期などをしっかりとお伝えし、お客様が経理処理について正しく理解できるようにアドバイスすることが求められます。
 また、解約返戻率についての情報は、これまで「損金算入額累計額に法人税等実効税率を乗じた金額」を考慮して算出した実質返戻率または参考返戻率といわれるもの(以下「実施返戻率」)がパンフレットやチラシに記載されており、これを強調した説明も行われてきましたが、お客様に誤解を与える可能性があるため、今後、この実質返戻率については記載しないことになりました。この点が、今回の改正の中で一番確認しておくことが求められることです。
 しかし、お客様からいままでと同様、実質返戻率を確認したいと希望される場合があるかと思います。そのような場合には、お客様に事情を説明して了解をいただき、たとえお客様から質問や照会を受け、やむを得ず実質返戻率を提示することになっても、「支払い保険料を損金算入しても、保険金や解約返戻金等は受取時に益金算入されるため、課税タイミングが変わる“課税の繰延べ”にすぎず、原則、節税効果はない」ことを必ず説明しなければなりません。
 さらに注意が必要なのは、実質返戻率の数値を提示することで、お客様に誤解を与える可能性があり、もしもお客様が誤解をされた場合には、その誤解を払拭することは容易ではないため、その取扱いには十分に慎重になるべきとされていることです。
 例えば、保険金や解約返戻金を実際に受け取った際の益金に、法人税等実効税率を乗じて課税負担額を計算し、それを反映した返戻率をお客様に提示する場合であっても(この場合は返戻率計算時の分子の金額が少なくなるため、名目の返戻率よりも低く算出される)、誤解を与える可能性が高いとされており、販売の場面で、この法人税等実効税率を加味して返戻率を提示することについては相当慎重に取り扱うことが求められています。
 従来、ついつい実質返戻率を強調した販売をしていたことが、「節税」を目的とした法人契約の販売を助長したと考えられていることにより、今回のガイドラインの改正となったことを考えると、実際の販売の場面においては、よほどの強いお客様の希望がない限り、実質返戻率のような情報の提示は避けたほうがいいと考えられます。

■ (3)「法人向け保険商品にかかる顧客向けの注意喚起情報」の確認

 募集する際には、各生命保険会社が作成した、以下の内容を記載したチラシを必ず手交して説明します。

  1. 法人向け保険は、被保険者さまに万が一のことがあった場合、保険金などを事業承継保障資金等の財源としてご活用いただくための「保障」等を目的とする商品であること
  2. 「支払保険料」を損金算入しても、「保険金」「解約返戻金」などは益金に算入されるため、課税タイミングが変わる課税の繰延に過ぎず、原則、節税効果はない
  3. 保険本来の趣旨を逸脱する保険加入、例えば「保険料の損金算入による法人税額の圧縮」のみを目的とする保険加入はお勧めしていない

この3点は、しっかりとお客様に説明をして、十分にご理解をいただくようにしなければなりません。

 今回のガイドラインの改正内容を確認していると、保険料支払時の経理処理によって損金算入されたことによる法人税等の税負担に与える影響の説明を行うことはかえってお客様の誤解を招く恐れがあることから、そこまでの説明はないほうが望ましいと考えているのではないか、とも受け取れます。
 今回の法人契約の法人税基本通達の改正で、法人契約の販売を心配する声も聞こえてきます。しかし、ここ数年が特に全額損金算入されるうえに返戻率が高くなるという「財務ニーズ」ばかりを強調した販売が主流となり、生命保険の販売手法としては少し異常だったのかもしれません。それに対する問題意識の表れが今回の通達改正であり、募集文書などの表示ガイドラインの改正となったと言えるでしょう。かつては当たり前であった「保障」ニーズをしっかりと説明することで、お客様には保険の必要性をご理解いただけると思います。もう一度原点に立ち返った販売が求められています。

 実際にお客様に対応をする際には、この点をしっかりと理解したうえでご説明をし、あとからのトラブルが発生しないように注意することが重要となります。

<後編につづく>

2019.08.22

山本英生(やまもと ひでお)

山本英生税理士事務所 所長
税理士 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®
厚生労働省 ファイナンシャル技能検定 技能検定委員
神戸大学法学部大学院前期課程(修士)修了
明治安田生命保険相互会社 顧問
大学卒業後、明治生命保険相互会社(現明治安田生命保険相互会社)に勤務、営業教育部長などを歴任後円満退社し現職
著作 保険税務Q&A  など