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No.4450 相続税課税における生前贈与財産取扱いの留意点

 令和5年度税制改正では、相続税制・贈与税制の見直しが行われ、相続税課税における生前贈与加算の取扱い(対象期間の延長や加算額の取扱い)の改正が予定されている。生前贈与は相続(税)対策において効果的に活用できるが、十分な理解なく活用するとかえって逆効果となる恐れもある。そこで、相続税制・贈与税制の見直しが行われるこのタイミングで、留意すべき点に触れてみたい。

● 誰に対する生前贈与(贈与税の暦年課税適用)が相続税の課税対象に加算されるのか?

 相続税課税対象に加算される生前贈与財産(贈与税は暦年課税適用)の対象期間は、「相続開始前3年以内」から税制改正によって「相続開始前7年以内」に延長される予定である(令和6年1月1日以降の贈与が対象)が、では、誰から誰に対する贈与が対象になるかと言えば、「相続、遺贈によって財産を取得した人が被相続人から受けた贈与」となる(この項では暦年課税適用の贈与に限るものとする)。

 なので、たとえ相続人であっても相続・遺贈によって財産を取得しない、たとえば相続放棄をした人が相続だけでなく遺贈によっても財産を取得しなければ、相続開始前3年以内(改正後は7年以内)に被相続人から贈与された財産の加算は不要となるが、たとえば孫(代襲相続人は除く)のように相続人ではなくても、遺贈によって財産を取得するようなことがあれば、相続開始前3年以内(改正後は7年以内)の被相続人からの贈与財産は相続税の課税対象に加算されることになる。孫に財産を残したいがために遺言で財産を遺贈したりしてしまうと生前贈与した財産まで相続税の課税対象になりかねないことに、注意が必要となる。

 同じことが、生命保険の死亡保険金(契約者・被保険者=被相続人)がある場合にも言える。たとえば、相続放棄者が死亡保険金受取人であれば、死亡保険金を遺贈により取得したと見なされるため、相続開始前3年以内(改正後は7年以内)に被相続人から贈与を受けていれば、その贈与財産は相続税の課税対象となってしまう。相続税の納付を逃れたいがためだけに相続放棄をしたとしても、死亡保険金受取人であれば相続税の納付が発生するかもしれないし、さらに、生前贈与された財産までもが相続税の課税対象に加算されてしまうこともあり得る(もちろん、贈与時に納付した贈与税があれば、相続税額から控除される)。

● 相続時精算課税制度を適用した贈与財産はすべて相続税の課税対象に加算

 贈与税制にはもう一つ、「相続時精算課税制度」がある。この課税制度を適用した贈与財産については、贈与時には特別控除の適用によって累計2,500万円までは税負担なく財産の移転(贈与)が可能であり(超過分は一律20%課税)、多額の資産を一時に贈与しやすいというメリットがある反面、贈与時期に関わらず必ず相続税の課税対象に加算しなければならず、相続税対策としての効果という側面からなのか、適用件数も伸びず暦年課税に比べてかなり少ないレベルにとどまっているのが現状である。

 また、相続時精算課税制度は贈与者および受贈者の要件が定められており(贈与者は、60歳以上の父母または祖父母など、受贈者は、贈与者の直系卑属(子や孫など)である18歳以上の推定相続人または孫(年齢は贈与の年の1月1日時点))、適用できる贈与の範囲が限定されるという面もある。

 前述のとおり、この制度を適用する際には、贈与財産はすべて相続税の課税対象となることに留意が必要となる。たとえば、仮に、祖父母から孫(相続人ではない)に相続時精算課税制度を適用して贈与をすると、その贈与財産は贈与者である祖父母の相続が発生した際には相続税の課税対象になるので、贈与したその時点で孫にも相続税がかかることが決まってしまうこともあり得る(ただし、最終的には相続財産額や法定相続人の状況で結果的に相続税の納付が発生しない場合もある)。相続放棄者にしても同様で、この税制を適用した贈与を親から受けているだけで、その後に相続を放棄しても相続税の納付が発生してしまうことは十分にあり得ることとなる。

● 令和5年度税制改正では加算対象額についても改正の予定

 今回の税制改正では、生前贈与(暦年贈与課税適用)加算対象期間延長のほか、加算対象額に関する取扱いについての新設・改正が行われている。暦年課税適用の生前贈与については、今回延長となった対象期間分(相続開始前3年超~7年)の贈与については、その総額から100万円控除後の残額を加算することとなる。また、相続時精算課税制度については、贈与税課税において特別控除(2,500万円)とは別枠で、暦年課税とは別途に基礎控除(110万円)が新設され、相続発生時の贈与財産加算額は基礎控除額を控除後の残額となる。その結果、改正内容施行後に、生前贈与を行って7年以内に相続が発生した場合の相続税課税価格への加算額を比較すると、相続時精算課税適用の方が暦年贈与課税適用よりも贈与財産の加算額が少なく済む場合も考えられ、贈与税の負担も含めて検討した結果、相続時精算課税適用選択の幅が広がる影響も考えられる。

 これまで見たとおり、生前贈与を行う場合には、相続発生時点での遺産分割や遺贈のことまで含め、トータルな計画性をもって対応を考える必要があり、改正後はそのことがさらに重要となってくると思われる。相続税対策ばかりが相続対策ではないので、その他の対策(遺産分割対策など)との関係も考慮して有効な方法をトータルで考える事がこれまで以上に必要になると考えられる。

(注) 当記事における税制改正の内容は「令和5年度税制改正大綱」に拠っており、それらは、税制改正法案の成立により正式に決定となるため、本稿に記載の内容から変動する場合もあります。

2023.03.20
(セールス手帖社 堀 雅哉)