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No.4210 サ高住入居者等のケアプランを重点的に点検

● 焦点は、住まいと併設している等の介護事業所

 「No.4192 10月施行。市町村による新ケアプラン検証」で述べたとおり、今年10月から、在宅で介護保険を利用する人のケアプランを「市町村が検証する」しくみがより強化された。実は、この市町村がケアプランをチェックするしくみについて、もう1つ導入されたものがある。やはり今年10月から施行されているもので、対象となるのはサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)など「高齢者向け住まい」に居住しているケースだ。

 この場合の「高齢者向け住まい」には、サ高住のほか、住宅型有料老人ホーム(以下、住宅型有料)も含まれる。住宅型有料においては、介護保険サービスはセットになっていない(セットになっているものは、「介護付き有料老人ホーム」という)。入居者が介護保険を使う場合には、一般住宅と同じく自身で事業者を選び、そのつど契約することになる。

 一方で、こうした住まいの中には、表向きセット化はしていないものの、ケアプランを作成する居宅介護支援事業所や訪問・通所介護などの介護保険サービス事業所が併設されているケースもある。あるいは、ホーム設置者と同一・系列法人で運営されるパターンも見られる。今回のケアプランのチェックは、こうした状況下で介護保険を利用しているケースを対象としたものだ。

● 今回のプラン抽出は市町村の裁量が大きい

 具体的には、上記のようなケースにおいて、①市町村が設定する要件に合致する居宅介護事業所を対象に、②その事業所で(2021年10月以降に)作成したケアプランの中から市町村が「点検の必要あり」と判断したものの提出を求めるというもの。実際の点検については、「注目のトピックスNo.4192」のケースと同様に地域ケア会議等を活用して行なうことも可能になっている。

 ちなみに、①の要件設定というのは、「区分支給限度基準額の利用割合(※)」かつ「利用サービスの種類とその利用割合」について設定するというものだ。②の指定についても、①で設定された要件にもとづいて判断される。

 お気づきのように、今回のケースでは、①の要件設定や②の指定判断において「市町村」の裁量が大きい。具体的な(区分支給限度基準額等にかかる)割合やサービス種類を厚労省が定めるわけではない。これは「注目のトピックスNo.4192」のケースと制度上の位置づけが異なる点によるものだが、いずれにしても管轄する市町村によって微妙にしくみは変わってくる。

※ 区分支給限度基準額の利用割合:介護保険では、要介護度ごとに給付の限度額が決まっているが、その限度額に対してどれだけのサービスを使っているかという割合。

● 収入不足を保険給付でカバーする悪質事例

 なぜ、高齢者向け住まいについて、こうしたしくみが導入されたのか。その背景には、介護保険のあり方を検討する審議会(社会保障審議会介護給付費分科会)でなされた以下のような指摘がある。

 それは、サ高住等の入居者に対して、住まいの設置者側が自法人や系列法人が運営する介護保険サービスを過剰に提供しているといった実態が一部で見られるというものだ。これには、住まい側の家賃等による収入不足を補おうという意図がある。悪質なケースになると、低価格家賃で入居者を集め、その分の穴埋めを介護保険による過剰サービスであてるというやり方も報告されている。

 こうした問題への対処に向け介護給付が悪用されるのを防ごうというのが、今回のしくみと位置づけられる。ただし、市町村裁量が大きい分、その効果は自治体ごとの問題意識や、そもそもの悪質事業者の発見感度によって左右されやすい。たとえば、真摯に対応しようとする真面目な事業者ほど実務負担増などの割をくうとなれば本末転倒となりかねない。このあたりが今後の課題となりそうだ。

参考:
厚生労働省老健局「居宅介護支援事業所単位で抽出するケアプラン検証等について(周知)」(令和3年9月22日)
厚生労働省老健局「高齢者向け住まい等における適正なサービス提供確保のための更なる指導の徹底について」(令和3年3月18日)

2021.11.22

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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