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No.4206 相互協議の発生件数、処理件数どちらも微減

● 処理件数は155件、翌事務年度への繰越件数は572件

 国税庁が公表した令和2事務年度(令和2年7月~令和3年6月)の相互協議の状況によると、令和2事務年度の相互協議事案の処理件数は前事務年度から31件(17%)減少の155件となった。相互協議とは、納税者が移転価格課税等による国際的な二重課税を受けた場合、または受けるに至ると認められる場合に、国税庁と条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続きのこと。

 発生した事案のうち「移転価格課税その他」に係るものは39件で、全体の21%。処理件数は33件となった。「移転価格課税その他」には、移転価格課税に加えて、恒久的施設(PE)に関する事案や、源泉所得税に関する事案などが含まれている。

 相互協議事案の発生件数は185件で、処理件数を上回っているため、翌事務年度への繰越件数は前事務年度と比較して5.5%増加の572件。なお、発生件数185件という数字は前事務年度を15件(7.5%)下回っている。繰越事案の相手国を国別にみると、米国が19%で最も多く、次いで中国(17%)、インド(15%)、韓国(11%)、ドイツ(7%)の順となっている。

 処理された155件を業種別にみると、「製造業」が最多の109件で、「卸売・小売業」22件、「その他」24件。また、対象取引別にみると、「棚卸資産取引」が123件で最多、次いで「役務提供取引」87件、「無形資産取引」72件となった。また、処理事案1件当たりに要した平均的な期間は30.3ヶ月(前事務年度29.4ヶ月)だった。

● 処理された事案のうち約8割が「事前確認」

 国税庁では、納税者の予測可能性を高め、移転価格税制の適正・円滑な執行を図る観点から、事前確認に係る相互協議を実施している。この制度は、納税者が税務当局に事前に申し出た独立企業間価格の算定方法を税務当局があらかじめ確認し、移転価格課税が行われないようにするもの。

 令和2事務年度は185件の相互協議事案が発生したが、そのうち事前確認に係るものは146件で、全体の約8割を占めた。処理された事案を見ても、件数155件のうち事前確認に係るものの処理件数は122件で、こちらも約8割を占めている。

 令和2事務年度ではやや発生件数の増加が抑えられたが、移転価格課税による追徴課税の大規模化が進んでおり、今後も相互協議のニーズはますます高まるものとみられている。

参考資料:
 国税庁「令和2事務年度の相互協議の状況」
 国税庁「(別紙3)令和2事務年度・相互協議処理事案の内訳」

2021.11.15

浅野 宗玄(あさの・むねはる)

株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.php