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No.4201 無期転換権を行使した有期雇用者は約3割

● 無期転換ルール開始後初の実態調査

 厚生労働省は、有期契約の労働者が5年を超えると無期契約を申し込める「無期転換ルール」に関する実態調査を初めて行い、今年7月に公表した。今回の調査では、5人以上を雇う全国の5,662事業所から昨年4月時点の状況を、さらにそこで働く労働者6,668人から今年1月1日時点の状況を回答してもらい取りまとめている。

 調査結果によると、2018~2019年度に無期転換を申し込める権利を得た人のうち、実際に行使した人は約3割(27.8%)だった。

● 無期転換ルール開始から8年経過

 無期転換ルールとは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことをいう。

 例えば、有期契約労働者の契約期間が1年の場合は5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合は1回目の更新後の3年間に無期転換の申込みの権利が発生することになる。有期契約労働者が会社に対して無期転換権を行使した場合、無期労働契約が自動的に成立するので、使用者は断ることはできない。

 この無期転換ルールは、2013年4月1日の改正労働契約法施行により規定されており、企業規模に関係なく全事業所が対象となっていることがポイントだ。現時点で施行から8年が経っており、このような調査結果を受けて今後に向けての改善、運用面などを見直すためにも大事な検証時期に入っているともいえる。

● 4割が無期転換ルールを知らない

 調査結果で気になった点として、8年も経っている割には有期契約労働者の無期転換ルールの認知状況が進んでいないことが挙げられる。無期転換ルールに関する知識の有無についての質問に、無期転換ルールに関して何らか「知っていることがある」と答えた有期契約労働者の割合は56.3%(内容について知っていることがある38.5%、名称だけ聞いたことがある17.8%)に対し、「知らない」と答えた割合は39.9%もあった。

 約4割が知らないということは、勤務先で案内がされていないというケースがかなりあるのではないだろうか。今回の調査でも、5年の通算期間を満たした労働者に対し、無期転換できることを「案内している」企業の割合は52.3%であり、「現状で案内していない」企業の割合は40.4%となっている。中小企業の経営者や人事労務担当者の中には無期転換ルールの詳細をよくわかっていない方もいるであろうし、意識して対応しようとしていないことも考えられるだろう。

 企業規模別の調査をみると、無期転換ルールにより無期転換の申込権が生じた人のうち、「無期転換を申込む権利を行使した人」の割合が最も高いのは「1,000人以上」の企業規模で約4割となっているが、最も割合が低いのは「5~29人」の企業規模で1割未満であった。

 労働者はこの無期転換ルールについてどう考えているのだろうか。雇用の安定化のために有効だと考える割合は38.2%、有効でないと考える割合は18.4%だった。

 有効ではないと考える理由としては、「かえって更新上限等による雇止めが増える恐れがあるから」との回答が最も多く、次いで「労働者の多くは希望しないと思うから」となっており、その他にも「罰則等の拘束力がないから」「無期労働契約へ移行できても、正社員になれるわけではないから」といった意見が挙げられている。これらの理由から今後の課題も明らかになっているので、厚生労働省は企業側の協力を得ながらこの無期転換ルールをより効果的なものにしていってもらいたい。

参照: 厚生労働省 多様化する労働契約のルールに関する検討会第5回資料 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況(修正版・10月12日掲載)

2021.11.08

庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)

株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

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