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No.4082 スイッチOTC医薬品の所得控除5年延長

● セルフメディケーション税制について

 確定申告シーズンだが、セルフメディケーション税制について関心の高い人も多いだろう。セルフメディケーションとは、本来「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(WHOの定義より)だが、狭義では適切な健康管理のもと、医療用医薬品からの代替を進めるための「自主服薬」と位置付けられる。この「自主服薬」推進に向けて設けられたのが、セルフメディケーション税制だ。

 具体的には、一定のスイッチOTC医薬品を購入した場合に、年間に支払った合計額が1万2,000円を超えると、超えた分の金額が総所得金額等から控除される(超過金額の上限は8万8,000円。一定の健診や予防接種を受けるなど、健康の保持増進および疾病予防に取り組んでいることが要件となる)。

 上記のスイッチOTC医薬品とは、要指導医薬品および一般用医薬品のうち、医療用から転用されたものをいう。「医療用からの転用」なので、医療保険給付の対象外のものは含まれない。たとえば、同じメーカーの同ブランド名の医薬品でも、スイッチOTCに該当するものとそうでないものがある(後者の該当しないものを非スイッチOTC医薬品という)。

● 今税制大綱で購入期限は2026年末までに

 このスイッチOTC医薬品購入によるセルフメディケーション税制は、2015年12月の税制大綱の「医療費控除の特例」として定められた。目的は、国民がセルフメディケーションに取り組む環境を整備することだが、「膨らみつつある医療費の適正化」という財政上の狙いもあることは言うまでもない。

 あくまで特例なので対象期限があり、当初は「2021年12月31日の購入分まで」とされていた。これが、2020年12月の税制大綱により急きょ延長されることになった。延長は5年、つまり2026年12月31日の購入分までが対象となるわけだ。

 ただし大綱では、延長にあたって以下の2点を検討課題にあげている。1つは、現行で対象となっているスイッチOTC医薬品から、「医療費適正化効果が低い」と認められるものを除外すること。2つめは、スイッチOTC以外の一般用医薬品等で、医療費削減効果が著しく高いと認められるもの(薬効分類で3類程度)を新たに税制対象に加えることだ。

 なお、前者については、所要の経過措置が設けられる予定となっている。現行では誤って対象外の医薬品で申告してしまうケースもあり(そうなると修正申告が必要になる)、消費者への認知も課題として付きまとう。当然、前者の課題で「除外対象」を定めれば、誤申告も増える恐れがある。それを防ぐための「周知期間」という意味合いがある。

● 何をもって医療費削減効果を判定するか

 さて、この2つの課題に向けては専門的知見での議論が必要となるが、そのための有識者検討会(※)が厚労省でスタートした。メンバーは日本医師会や健康保険者、医薬品業界団体の代表のほか、医療経済学分野の有識者も含まれる。これは、先の課題中にある「医療費適正化(削減)効果」が論点となるからだ。

 そもそも何をもって「薬効ごとの医療費削減効果」を判定するかとなれば、客観的なデータ分析が必要だ。ちなみに、検討会で示されたデータでは、将来的にOTC導入可能性がある薬効の中で、たとえば「高血圧」の医療費削減効果が高いという結果などが示された。一方で、「医療の質」という議論の必要性も課題としてあがっている。

 こうした検討を経て、今年3月末までには税制対象範囲が決定される予定だ。その後は、国民に誤解なく周知できるかどうかが施策上の大きなポイントとなってくる。

厚生労働省「セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」

2021.03.22

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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