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No.4048 後期高齢者の医療2割負担、所得水準が決定

● 単身世帯で年収200万円以上が「2割」に

 政府・与党間での紆余曲折を経て、ようやく決着を見た──後期高齢者(75歳以上)の医療費窓口負担を2割とする改革案のことだ。

 12月14日、政府の全世代型社会保障検討会議が改革の方針案を示し、その中で上記の2割負担についての所得水準と施行時期を盛り込んだ。最終報告となる同方針案の提示は当初7日の予定だったが、与党・公明党の主張との折り合いがつかず1週間遅れとなった。

 示された2割負担となる所得水準は、課税所得が28万円以上、および年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)となる。なお施行にあたっては、長期に頻回受診を要する患者に配慮し、施行後3年間の緩和措置が導入される予定だ。具体的には、影響の大きい外来患者の(2割負担による)1か月の負担増が3,000円内に収まるようなしくみとなる。

 一方、施行時期については、準備期間等も考慮したうえで2022年度後半が目指されている。最終的には政令による定めとなるが、そのために必要な法案は2021年の通常国会に提出される予定となっている。

● 団塊世代が75歳に入る2022年をにらんで

 ここで、後期高齢者の窓口負担について、現行のしくみを整理しておこう。

 窓口負担割合は、現役並み所得(課税所得145万円以上、および年収約383万円以上)は3割だが、それ以外は一律1割となっている。現役並み所得層の後期高齢者全体での割合は約7%(約130万人)なので、現行では90%以上が1割負担となっている。

 問題は、2022年から団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となり始め、2025年には全員が到達することだ。70~74歳の窓口負担は、現役並み所得層の3割を除いて2割となっている。この年齢層が雪崩を打って後期高齢者となり、窓口負担が2分の1(1割)となれば、当然ながら医療保険からの拠出は急増する。ただでさえ減少している現役世代の保険料負担が、一気に高まることになる。

 だが、後期高齢者となれば、就労もままならず、基礎年金での生活者も少なくない。その世代に70~74歳と同じ2割負担を強いるとなれば、所得水準での線引きは慎重さが要される。この線引きの部分で、政府・与党間の綱引きが激化することになった。

● 政府側「年収170万円以上」からの譲歩

 当初、与党・公明党は、新型コロナの感染拡大を受けて「年明け以降」への結論の先送りを求めていた。だが、政府側が折れず、公明党も年内での決着に向けて譲歩。次に争点となったのが所得水準だが、政府案の「単身世帯で170万円以上」に対し、公明党は譲歩しつつも「240万円以上」を主張し、ここでも溝がなかなか埋まらない。

 ちなみに、公明党案の「240万円以上」の後期高齢者に占める割合は上位20%(現役並み所得層含む)で、介護保険の2割負担の対象者と同等だ。その意味で整合性は取れていると言える。これに対し当初政府案の「170万円以上」は上位38%、2割近い差があった。

 結局は、冒頭で示した「200万円以上」で政府側が一定の譲歩を示したわけだが、2割以上の対象者は後期高齢者の上位30%(約370万人)にのぼる。なお、月あたり負担増の緩和措置について当初の厚労省案では4500円だったが、こちらは3000円まで譲歩している。

 これを当事者がどう受け取るか。たとえば介護が1割負担でも、医療で2割負担となるといった所得層などの受診動向に注意したい。

2021.01.18

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント(第3版)』『[新版]介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』『認知症で使えるサービス・しくみ・お金のことがわかる本』(自由国民社)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帖』(翔泳社)など多数。

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目 次

はじめに
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧
Part1 地域福祉にかかる包括的な支援体制の整備
Part2 重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
Part3 重層的支援体制の実際の「流れ」について
Part4 地域福祉を担う社会福祉連携法人
Part5 認知症施策の総合的な推進
Part6 介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
Part7 有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
Part8 保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
Part9 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
Part10 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
巻末資料 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱