お客様のお役に立つ JAIFA学習帖

  • サイト内検索:

No.4016 介護事業の倒産件数が2000年以降最多に
~恒常的な経営不振にコロナ禍が追い打ち~

● 介護保険スタートから20年で迎えた危機

 地域の介護サービス基盤が揺らぎ始めたことが、明確に数字に示された──10月8日に東京商工リサーチが公表した「老人福祉・介護事業」の倒産状況のことだ。今データは2020年1~9月期のもので、それによれば倒産件数は前年同期比10.5%増の94件にのぼる。同期を比較した場合、2000年の介護保険制度スタートから20年で最多となった。

 さらに、1~8月期の(倒産以外の)休廃業・解散件数313件を含めると407件に達している。313件という数字は、前年同期比で19.0%増。このままのペースで行くと、倒産および休廃業・解散を含めた件数は年間600件に達すると推計されている。この数字は2018年の551件を上回り、やはり2000年の介護保険制度スタート以降で最多となる。

 なぜここまで倒産や休廃業・解散が増えているのか。思いつく要因は、やはり新型コロナの感染拡大だろう。たとえば、通所(デイサービス等)・短期入所事業では、感染防止の観点から休止を余儀なくされたり、高齢者自身の利用控えなどの状況が長期にわたっている。サービスが継続できても、「三密」を避けるため受入れ件数を絞らざるを得ないこともある。また、従事者が感染したり、濃厚接触者となった場合は休職せざるを得ない。補充人員の手配などが追いつかず、やはり利用者の受入れを制限するケースも見られる。いずれにしても、経営的には厳しい状況となる。

● 2015年度からの経営苦境が表出された!?

 もっとも今回のデータによれば、新型コロナ関連の倒産は3件にとどまっている。国の持続化給付金などの施策に加え、介護事業においては報酬算定上のさまざまな特例措置(例.算定上の要件緩和や通所系における上位区分算定を可能にした特例)などが功を奏したといえそうだ。ただし、もともと経営不振だったところに新型コロナが追い打ちをかけ、それによって倒産のみならず自主廃業などを選択したケースが多いことは想定できる。

 このあたりは、倒産および休廃業・解散件数の伸びが近年(特に2015年以降)著しいことからもうかがえる。2015年といえば、4月の介護報酬改定でマイナス2.27%という過去2番目に大きな引き下げが行われている。その後は、労働力人口の減少による人件費コストの高まりなどが事業経営を圧迫してきた。

 新型コロナ禍の前の2019年度の介護事業経営概況調査(厚労省)にも、そのことはよく表れている。同調査では2017年度と2018年度決算を比較しているが、収支差率(収益額に対する収支差の割合。これが低いほど経営が厳しいことを示す)は全サービス平均でマイナス0.8%(税引前の数字)となっている。特に利用者の多い訪問介護でマイナス1.5%、通所介護に至ってはマイナス2.2%という厳しさだ。新型コロナ禍の前から、すでに介護業界の経営基盤は大きく揺らいでいたわけだ。

 介護現場においては、今冬は新型コロナに加え、季節性インフルエンザなど複合的な感染リスクへの対処を余儀なくされる。こうした現場負担を国も注視しており、2021年4月の介護報酬は引き上げとなる公算が大きい。だが、報酬が引き上げられれば、高齢者の保険料や利用者の自己負担増にもつながる。そうした中で、引き続き休廃業や倒産が増えるとなれば、国民の動揺はさらに大きくなりかねない。業界全体の体質、そして制度そのもののあり方まで問われる時代となりそうだ。

参考:
東京商工リサーチ「2020年1-9月『老人福祉・介護事業』の倒産状況」
厚生労働省「令和元年度介護事業経営概況調査結果」

2020.11.02

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント(第3版)』『[新版]介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』『認知症で使えるサービス・しくみ・お金のことがわかる本』(自由国民社)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帖』(翔泳社)など多数。

田中元さんの新刊が出ました!

[速報! 2021年度施行]介護事業者・介護福祉関係者必携!
改正介護保険早わかり(2021年度からの介護保険はこうなる)

著:田中元
定価:1,300円+税
発行:自由国民社
装丁:A5判・並製・224頁
詳しくはコチラ

2020・2021年度施行の「改正介護保険」と高齢者福祉・保健・医療関連法のポイントを、いち早く、項目別に詳しく解説。介護、福祉の何が変わるのかが、わかります! 2019年の重要な改正点も収載・解説。

目 次

はじめに
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧
Part1 地域福祉にかかる包括的な支援体制の整備
Part2 重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
Part3 重層的支援体制の実際の「流れ」について
Part4 地域福祉を担う社会福祉連携法人
Part5 認知症施策の総合的な推進
Part6 介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
Part7 有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
Part8 保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
Part9 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
Part10 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
巻末資料 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱