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No.3964 自筆証書遺言書保管制度、いよいよスタート

● 7月10日に制度スタート、手続きの予約は7月1日から

 2018年7月に成立・公布となった民法(相続法)改正において創設されて制度の中で唯一未施行だった「自筆証書遺言書保管制度」が、ついに7月10日スタートとなった。これによって改正民法による改正項目および創設項目のすべてが予定どおり施行されたこととなる。

 人生の価値観や生活様式の多様性が進行するなか、相続のあり方も変化しており、それぞれの家族に適した対応が必要とされている。被相続人の家族への想いをどう残すかという意味で、円滑な相続の実現のための「遺言」の意義は、ますます大きくなると考えられる。そういう状況のもとでスタートする「自筆証書遺言書保管制度」について、制度内容や手続きの概要を確認してみたい。

● 自筆証書遺言のメリット・デメリットと保管制度の意義

 自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書の全文(財産目録等を除く)、日付、および氏名を自書し、押印さえすれば一人で作成でき、費用もほとんどかからないという手軽で自由度の高い遺言の様式であるが、それだけに、遺言書の保管場所がわからない、あるはずの保管場所に見当たらない、あるいは遺言書の存在を知る一部の相続人が内容を改ざんする、ということが相続発生後に起こる危険性をともなう。

 そこで、自筆証書遺言書保管制度を活用すれば遺言書は法務局の遺言書保管所(全国に312か所)で保管されるので、行方不明や紛失、一部の相続人等による改ざん等の恐れはなくなる。また、相続人等のうちの一人が遺言書を閲覧した、または、遺言書の内容について「遺言書情報証明書」(後述)の交付を請求した場合、それ以外の相続人等に対して、遺言書保管所が遺言書の保管を通知することとなっており、これによってすべての相続人等が遺言書の存在を知ることとなる。

● 検認不要でも、保管された遺言書の有効性は保証されない

 また、残された自筆証書遺言の遺言書を有効なものとするため、相続人等は家庭裁判所に検認を請求しなければならないが、遺言者が生前のうちに自筆証書遺言書保管制度を適用しておけば、検認の手続きは不要となる。ただし、保管が受け付けられたことによって遺言書の有効性が保証されたものでないことには留意が必要である。自筆証書遺言の様式については細かなルールが定められており、それらを満たさない場合には、たとえ保管制度を適用していても無効となる場合があることに注意が必要となる。

 もっとも、遺言書保管受付時には、法務局職員(遺言書保管官)が民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認(全文、日付および氏名の自書、押印の有無等)を行うこととなっており、ある程度の様式不備回避は期待できると思われる。

● 遺言書保管の申請は遺言者本人による手続きが必須

 遺言書保管の申請は、遺言者本人の出頭義務が課せられており、たとえば、手続き予約日に本人が病気のために代理人が対応するというようなことは認められないが、介助のための付添人の同伴などは差し支えないとされている。遺言者が行うことのできるその他の手続きには、「遺言書の閲覧」「遺言書の保管の申請の撤回(遺言書の返却)」「住所等の変更の届出」があり、これらはすべて遺言者自身による手続きを要する。

 なお、遺言者が保管申請を手続きできる遺言保管所は、遺言者の住所地、遺言者の本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所であり、その他の手続きについては原則として、遺言書原本が保管されている遺言書保管所で行う必要がある(なお、モニターによる遺言書の閲覧および住所等の変更の届出はこの限りではなく、変更の届出は郵送も可)。また、諸手続きについては原則として予約制であり、予約なしで手続きに行った場合は予約者優先となるため、その日に手続きができないことがあることにも留意が必要である。

● 相続発生後に相続人等ができる手続き

 遺言書保管所に保管されている遺言書について、相続人等(相続人、受遺者、遺言執行者等、およびこれらの親権者や成年後見人等の法定代理人)が相続開始後(遺言者の死後)に手続きできることとして、「遺言書が預けられているかどうかの確認(遺言書保管事実証明書の交付の請求)」、「遺言書の内容の証明書を取得する(遺言書情報証明書の交付の請求)」、「遺言書の閲覧」があり、全国のどの遺言書保管所においても手続きが可能である(ただし、遺言書原本の閲覧は原本が保管されている遺言書保管所でのみ可能)。

 これらは、相続発生後の遺産分割や、その後の諸対応の円滑化に効果的な活用が可能であり、たとえば、遺言書情報証明書については、これまで遺言書原本を必要としていた相続登記手続き等や銀行での各種手続きにおいて、遺言書原本の代用として活用できることが想定されている。また、前述したとおり、遺言書情報証明書の請求や遺言書の閲覧の請求があった場合には、請求人以外の相続人等への通知が行われ、それによって関係者全員が遺言書の存在を知ることができ、円滑な相続対応に有効となることが期待できる。

● 制度活用に必要な手数料や本人確認など

 当制度を活用の際には手数料が発生する。遺言書の保管申請の場合は1通につき3,900円、遺言書の閲覧については、モニターの場合で1回につき1,400円、原本の場合で1回につき1,700円、相続人等による遺言書保管事実証明書の交付請求は1通につき800円、遺言書情報証明書の交付請求は1通につき1,400円となっている。また、いずれの請求の場合にも、請求者の本人確認用の顔写真付き身分証明書(マイナンバーカードや運転免許証など)やその他の定められた書類が必要となる。

参照:
法務省「法務局における自筆証書遺言書保管制度について 7月10日から開始します!預けて安心!自筆証書遺言書保管制度」
法務省パンフレット「自筆証書遺言書の保管制度のご案内」

2020.07.20
(セールス手帖社 堀 雅哉)