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No.3962 新型コロナ対応下、デイサービス特例の波紋
~突然の利用者負担増に困惑の声も~

● デイサービスで上位2区分の算定が可能に

 ご存じの方も多いだろうが、今、介護業界にちょっとした騒ぎが持ち上がっている。発端は6月1日に、厚労省がデイサービスなどの通所系サービスや短期入所系サービスを対象として発した通知だ。内容は、新型コロナウイルス感染症にかかる、上記のサービスの介護報酬の臨時的な取扱いである。

 具体的には、以下のとおり。

  1. 通所系サービスでは、月あたりサービス提供回数のうち、通知が示す方法で算出した回数まで「上位の報酬区分」が算定できる。
  2. 短期入所系サービスでは、やはり通知が示す方法で算出した日数分だけ、緊急短期入所受入加算の上乗せができる。

    ※ 緊急短期入所受入加算とは、事前にケアプランで設定されていない短期入所の受入れを緊急に行った場合に上乗せで算定されるもの

 ここでは、デイサービス(小規模スタイルとなる地域密着型含む)だけで200万人以上が利用している1.の通所系サービスについて、詳しく取り上げたい。基本的な知識としては、通所系サービスの基本報酬は「事業所の規模」「要介護度」および「利用時間」ごとに算定区分が定められている。たとえば、「通常規模」の事業所を「要介護3」の人が「3時間以上4時間未満」の区分で利用した場合、基本報酬は472単位(1単位=10円で計算すると、報酬は4,720円。利用者の所得区分が1割負担の場合、利用者負担は1回472円)となる。

 今回の臨時的な取扱いで「上位の報酬区分」が算定できるとされているが、具体的には2区分上位となる。つまり、先の「3時間以上4時間未満」の場合であれば、2区分上は「5時間以上6時間未満」となる(ちなみに、1区分上は「4時間以上5時間未満」)。先の「通常規模」で「要介護3」の場合だと765単位。つまり、事業者側としては1回あたり293単位の増収となるわけだ。一方、利用者からすると、1単位=10円で1割負担として293円負担が増えることになる。

● 区分支給限度基準額を超えてしまうケースも?

 この上乗せが、月あたりどれだけの回数で行われるのかといえば、

A. 利用時間が5時間未満で月1回
B. 利用時間が5時間以上の場合は最大で月4回まで

となる(利用日によってAパターン、Bパターンが混在している場合は計算がやや複雑になるが、いずれにしても最大4回まで)。たとえば、家族が仕事等で日中不在となり、長時間のデイサービス利用が必要というケースの場合、利用者側は月あたり500円近い負担増となる場合もある。

 問題は、通知内で区分支給限度基準額は動かさないとしていることだ。区分支給限度基準額は、要介護ごとに介護給付の限度額を定めたもので、これをオーバーしてサービスを利用した場合、超過分は全額自己負担となる。そして、もし限度額ぎりぎりまでサービスを使っていたとして、今回の臨時的な取扱いが適用されると(変更されないままの)区分支給限度基準額をオーバーしてしまう可能性も出てくる。

 なぜ、今回のような臨時的な取扱いをするのかといえば、事業者が利用者を受け入れる際の新型コロナの感染防止に取り組む手間等を評価することが目的だ。だが、こうした評価を(100%公費ではなく)介護報酬で行うとなれば、先のような利用者負担の問題が絡んでくる。ちなみに、通知では「上乗せに際しては利用者の同意が必要」としている。つまり、同意が得られなければ「上乗せ」は発生しない。当然、事業者や担当ケアマネジャーの説得によって報酬が左右されるわけで、公平性という観点からも課題は多い。

 すでに利用者団体などからは、厚労省の審議会で困惑の声も上がる。2021年度の介護報酬改定の議論にも影響を与える可能性もある。

2020.07.20

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題