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No.3954 国が強化する「地域の介護予防拠点」の課題
~新型コロナで「通いの場」運営は苦境に~

● 高齢者の健康維持に向けた国の肝いり施策

 新型コロナの感染拡大をめぐり、とりあえず国による緊急事態宣言は解除された。しかし、数か月にわたる外出等の自粛要請は、国民生活にさまざまな影響をおよぼしている。特に深刻なのが、生活行動の制限が身体機能の低下へと急速に直結しやすい高齢者だろう。

 この高齢者の状況について、国立研究開発法人である国立長寿医療研究センターは、65~84歳を対象としたインターネット調査を実施した。それによれば、新型コロナの感染拡大の前後で、1週間あたりの(家の内外での運動などによる)身体活動時間は約60分(約3割)減少している。今後は熱中症リスクを避けるために「外出を控える」ケースも増えると想定される中、高齢者の運動機能の低下、ひいては要介護リスクの高まりが強く懸念される。

 高齢者の要介護リスクの低減に向けては、国が力を入れている施策に「通いの場」の充実がある。これは、比較的元気な高齢者を対象に、介護保険の財源を使った市町村の事業(地域支援事業)として行われているものだ。たとえば、地元の公民館などに高齢者が通い、筋力・運動機能の維持・改善、転倒防止などに資する運動などを行ったりする。「他者との交流」によって、閉じこもりや地域からの孤立を防ぐことにもつなげる狙いがある。

 この「通いの場」については、2019年に介護保険法や健康保険法が改正され、医療保険による保健事業との一体的な実施が可能になった。たとえば、「通いの場」に管理栄養士やセラピストなどの専門職がかかわりつつ、保健事業による健診結果等をもとにしたアドバイスなどを行うことで、健康維持の効果をさらに高めようというものだ。

● 感染下、国は予算措置等で下支えするが…

 この改正法の施行は今年の4月。折しも新型コロナの感染拡大で、「通いの場」も続々と休止になった。新たな施策は出鼻をくじかれた形となったわけだが、何とか軌道に乗せたい国はさまざまな手を打ち始めている。

 たとえば、新型コロナ対策が中心となった第一次補正予算では、「通いの場」の活動自粛下における介護予防のための広報・ICT化支援に4億円を計上した。具体的には、「通いの場」が休止中でも、家で健康を維持できるような「運動」にかかる情報提供を行うとともに、スマホアプリ等による運動管理ツールの配信などを行うというものだ。

 また、緊急事態宣言が解除された後は、円滑に「通いの場」が再開できるよう、感染防止のための留意事項(三つの密を避ける、運営者・参加者の検温を実施する、1時間に2回以上の換気を行うなど)を市町村や関係者に通知した。その中には、どうしても参加が難しい場合に、ICT等の活用や住民間での個別訪問を組み合わせることで、高齢者の社会参加機会を確保する旨も示されている。

 このように、国としての力の入れようは伝わるものの、課題も少なくない。何より、こうした「通いの場」の主たる運営は住民ボランティアなどに委ねられていることだ。ボランティアにも新型コロナ感染を補償する保険はあるが、「いざクラスター(集団感染)が発生した場合」などを考えると、ボランティアとなればどうしても腰が引けがちとなる。新型コロナ感染の第二波の懸念もくすぶる中、施策の有効性が問われているといえる。

参考: 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「高齢者の感染予防と身体活動」

2020.07.06

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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目 次

  • 第1章 【基本編】多職種連携は、なぜうまくいかないのか?
  • 第2章 【応用編①】対医療連携で医師を振り向かせるにはどうしたらいいのか
  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題