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No.3946 第二次補正予算は「介護崩壊」を防げるか
~現場従事者への幅広い「慰労金」も~

● 一次補正予算の支援策では何が足りない?

 新型コロナ感染症にかかる緊急事態宣言は解除されたが、引き続き「第二波到来」などの懸念は続いている。そうした中、疲弊状態にあるのが、医療のみならず介護の現場だ。重症化しやすい要介護高齢者に対して継続的な感染防止が要求される緊張状態とともに、感染者との濃厚接触等による休職などから人材不足も深刻化している。自粛ストレスによる利用者からのハラスメント事例も増えており、現場従事者の負担は見逃せない状況だ。

 そうした中、4月30日に成立した第一次補正予算では、新型コロナ対応にかかる医療体制の整備等を目的とした緊急包括支援交付金が設けられた。一方、介護事業に対してはサービス継続支援を目的とした予算投入が図られ、現場従事者への割増賃金なども交付対象となっている。だが、いずれも事業対象は限定的だ。医療であれば都道府県が認める事業計画の範囲内となり、介護であれば利用者・従事者に感染者が発生したり、濃厚接触者に対応した事業所などに限定される。無症状感染者も多い中では、疲弊した従事者の隅々まで支援が行き渡らない可能性もある。

 もっとも医療の場合は、新型コロナ感染患者の受入れなどに際し診療報酬を最大で3倍引き上げるなど医療保険上の対処も図られた。これに対し、介護側はもともと従事者全体の賃金が低いうえに、介護保険上の対処までは踏み込まれていない。そのため、介護にかかる職能・業界団体はもとより、与党内からも「現場従事者への給付拡大」を求める声が相次いだ。

● 二次補正で、過去に例のない範囲・規模に

 こうした要望を受け、5月27日に閣議決定された第二次補正予算案では、「従事者への給付」について踏み込んだ方策が図られた。具体的には、すべての事業所・施設の全従事者(介護職員のみならず看護職、事務職なども含む)に対する「慰労金」が設けられたことだ。内容は、①感染症が発生したり濃厚接触者に対応した事業所・施設の従事者に一律20万円、②①以外の事業所・施設の従事者にも一律5万円となっている。現役の介護従事者に対して、すべて公費によるここまでの範囲・規模の給付は過去に例がない(リーマンショック時の処遇改善交付金はあるが、時限的措置で月額15,000円にとどまっている)。

 もう一つの注目は、離職した介護職に対する再就職準備金貸付事業の拡充だ。これは、過去に介護現場に(1年以上)従事した経験のある介護職や一定の有資格者が現場復帰を志している場合、再就職による転居費用や学び直しの講習代、子どもの預け先を探す際の活動費などに対する貸付を行うものだ。その後に2年間継続して従事すれば、返済は全額免除される。もともと既存の事業だが、今回はこの上限を20万円から40万円に引き上げるという。

 この施策の狙いは、現場で休職者が発生した場合の(即戦力となれる)補充人員の確保にある。現任者支援に先の「慰労金」をあて、一時的な人員不足は「準備金拡充」で補う構図というわけだ。とはいえ、あくまで一時的な施策であることに変わりはない。新型コロナ感染の今後の動向によっては、次の一手までの「つなぎ」という位置づけにならざるを得ないだろう。その「つなぎ」の先にあるのは、やはり介護報酬の改定となる。これをどこまで引き上げるのか、(通常は2021年4月改定だが)前倒しで行うのか。もちろん、国民の保険料負担増にもかかわるゆえ、コンセンサスの取り方も課題となりそうだ。

※ この記事は6月5日現在の情報等に基づいています。

2020.06.22

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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目 次

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  • 第2章 【応用編①】対医療連携で医師を振り向かせるにはどうしたらいいのか
  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題