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No.3938 新型コロナの迅速診断検査薬が保険適用に
~約30分で判定可能だが診断上は課題も~

● これまでのPCR検査との違いは何か?

 新型コロナウイルス感染症に関連して、感染が疑われる人に対するPCR検査の需給ひっ迫が懸念されている。そうした中、より迅速な診断が可能となる抗原検査キットが開発され、5月13日から保険適用された。具体的には、「マイコプラズマ抗原定性(マイコプラズマ肺炎にかかる検査法)」の報酬を準用し、PCR検査と同様、検査費用の本人負担は求めない(診察時の初診料などの負担は発生する)。

 従来のPCR検査の場合、結果が判明するまで1日から数日を要していた。これに対し、新たな抗原検査キットでは約30分で結果が得られる。また、特別な検査機器を必要としない点で、検査機関(帰国者・接触者外来の医療機関等)のすそ野を広げることもできる。

 なぜ簡便・迅速なのかを解説しておこう。PCR検査は核酸増幅法と言われ、検査対象者から採取された検体内のウイルス遺伝子を増幅して検出するという方法だ。検体は鼻咽頭の粘液などを拭って採取することもあるが、一定の症状があって喀痰が確認されている人の場合、ウイルスが集中しやすい痰を採取して検体とするケースが多い。そして、DNAの増幅という過程が必要であるゆえに、特別な検査機器や一定の時間が必要となるわけだ。

 これに対し、今回の抗原検査キットは、鼻咽頭から拭い取った粘液から、酵素免疫反応によって抗原を検出するという方法である。DNA増幅などの過程は必要なく、検体処理液と反応カセットからなる試薬キットだけで検査できる。

※抗原: 病原性ウイルスを構成するたんぱく質など、体内で免疫反応(応答)を引き起こす物質

● 厚労省はPCR検査との併用を求めている

 ただし、簡便・迅速というメリットとはうらはらに課題もある。それは、PCR検査の核酸増幅法と比較して、検出のためには一定以上のウイルス量が必要という点だ。そのため、厚労省の新型コロナウイルス感染症対策本部も、現時点では無症状者へのスクリーニング検査や「陰性であること」を確認する(除外判断)などの目的には適していないとしている。つまり、「陽性」の場合には確定診断となるが、「陰性」の場合は「医師の判断」によって改めてPCR検査を行う必要があるということだ。たとえば、抗原検査で「陰性」でもPCR検査で「陽性」となる可能性もありうることになる。

 これにより、5月13日に出された厚労省のガイドライン案でも、①無症状者への使用は推奨しない、②PCR検査と併用すること(回復後の退院判定でも同様)が明記された。ちなみに、①の無症状者の判断が難しい場合だが、新型コロナウイルス感染の症状がなくても、緊急入院を要する患者については「症状がある」ものとして判断される。

 こうして見ると、今回の抗原検査の位置づけは、あくまで「陽性者の確定診断を迅速化し入院治療等へとつなぐ」ことにあると言える。早期対処で命を救うことが何よりも優先されることを考えれば、導入上の大きなメリットであるのは間違いない。ただし、新型コロナに対する社会的不安が極めて大きい中では、上記のような周知を徹底させないと「簡易・迅速な検査」への過剰な期待感から新たな混乱を招く可能性もある。そもそも、国は新型コロナ感染症対策において、「検査」体制のあるべき姿をどのように位置づけようとしているのか。この点について、より整理された広報を進めていく必要がありそうだ。

* なお、厚労省は6月から1万人規模の抗体検査を行うとしている。「抗体」とは、「抗原」が体内に入ったときに対抗するために生成される物質(たんぱく質)のこと。PCR検査や抗原検査のように「体内にウイルスがあるかどうか」ではなく、あくまで感染歴を調べることが目的。よって、感染傾向を調べるうえでは一定の効果はあるが、診断には向かないとされる。

2020.06.08

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題