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No.3928 法定利率改正が損害保険に与える影響

 民法改正により2020年4月から施行された中には、保険に関連するものとしては「配偶者居住権の創設」や「定型約款に関する規定の新設」などがありますが、「民事法定利率」についても大きな改正がされています。2020年4月から民事法定利率が年率5%から3%に引下げとなり、更に3年後からは3年ごとの変動制となります。

● 利率引下げの影響

 法定利率とは、法律によって定められている利率のことで、現在の低金利の市場金利に比べて法定利率が高すぎることから改正されました。今回の引下げは損害保険の損害賠償額の計算に影響を及ぼします。

 損害賠償額の計算には逸失利益(被害者が将来働けなくなったことにより得られなくなった利益)の算定が必要で、逸失利益算定には中間利息の控除(将来得られたであろう利益を現時点の金額に換算すること)が必要となります。

 中間利息控除前の金額は、逸失した将来の何十年にもわたる就労可能年数で計算した支払額の総額ですから、これを一時金で支払う場合は金利分が控除される、というのが中間利息の控除で、この利息計算で用いられる金利が民事法定利率です。5%と3%とでは実際の支払額(損害保険会社の負担額)は大きく変わります。

 例えば、日本損害保険協会作成「損害賠償額算定における中間利息控除について」によれば、27歳男性(全年齢平均賃金:月額415,400円/就労可能(能力喪失)年数40年/一家の支柱・被扶養者2人(生活費控除割合35%))が死亡した場合の逸失利益は、民事法定利率が5%の場合は55,597,219円であるのに対して3%の場合は74,895,374円となり、約1,930万円(34.7%)増加します。

 また、中間利息控除に適用される法定利率は、「損害賠償の請求権が生じた時点」が基準で、交通事故では、原則として事故時における法定利率により計算されることになります。変動制になったことによって、被害を受けた時期によって損害賠償額(逸失利益額)に差が生じ、被害の軽重と賠償額の大小とが逆転する状況が発生することもあり得ます。

● 保険料値上がりの可能性

 このように、民事法定利率の引下げによって、控除される中間利息の額が減少し、実際の支払額(損害保険会社の負担額)が大きく増加します。このことにより、人身事故における損害賠償額が高額化し、保険料の上昇につながる可能性があります。

参照: 一般社団法人日本損害保険協会「損害賠償額算定における中間利息控除について」

2020.05.18
(セールス手帖社 高田 康正)