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No.3922 緊急事態宣言で介護サービスはどうなる?

● 事業所によっては休止や利用制限も!?

 新型コロナウイルスの感染拡大にともない、政府は4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)にもとづく緊急事態宣言を、東京など7都府県に発した(4月16日、対象は全国に拡大されている)。これにより、対象となる都府県知事は、一定期間「多数の者が利用する施設」等に使用の制限等の措置を講ずるよう要請できる。

 この対象となる施設について、特措法では「社会福祉施設」も含めているが、「通所または短期間の入所により利用されるものに限る」とされている。介護サービスでいえば、通所系(通所介護や通所リハビリなど)や短期入所系(短期入所生活・療養介護など)となる。

 ちなみに、今回宣言の対象となった東京都については、面積にかかわらず「適切な感染防止対策の協力を要請」としているのみで、利用制限までは踏み込んでいない。これは、介護サービス等を提供する社会福祉施設が「利用者やその家族の生活を継続するうえで欠かせないもの」という視点での方針だ。とはいえ、高齢者が重症化しやすい状況や、多人数が密集しやすい環境を考えれば、今後も自治体単位で使用の制限(休業など)を要請するケースが出てくる可能性がある。また、職員の感染リスクや休校等にともなう家庭の事情によって、適切なサービス運営を行う人員が確保できず、やむなく自主休業とする事業所が増えることも考えられる。(なお、厚労省の調査では、先の7都府県ですでに260以上のデイサービス事業所の休業が確認されている──4月16日時点)

● サービス場所の変更や訪問等への切り替え

 では、すでに使っている通所系・短期入所系サービスに利用制限が生じた場合、利用者やその家族としてはどうすればいいのか。厚労省は、こうした休業等のケースを想定して連日のように自治体・事業者向けの通知を発出している。これを利用者の立場から「どうなるのか」という視点で整理してみよう。(4月10日時点までの発出通知にもとづく)

 たとえば、通所系サービスにおいて、事業所を休止したりサービスの利用制限(1人あたりの事業所への通所回数を減らすなど)を行った場合、厚労省は以下のようなしくみを提示している。1つは、公民館など休止・制限している事業所以外の場所でサービスを提供するというもの。もう1つは、職員が利用者の居宅を訪問して、サービス計画に則ってできる限りのサービスを行うというものだ。いずれも、それぞれの方法によるサービスの提供時間に応じて事業者側に報酬が発生する(ケアプランで設定した時間に応じた報酬を上限とする)。つまり、トータルのサービス利用時間が変わらなければ、利用者が支払う利用料にも変化は生じない。

● サービス変更による不具合は早急に相談を

 もちろん、こうした特例的な状況になった場合には、事業者もしくは担当ケアマネジャーから事前説明がある。本人や家族の意向(たとえば、「訪問への切り替え」に対して「家に他者が来ること」に拒否反応を示しがちな人もいる)についても確認が行われ、サービス変更についての利用者側の同意も必要となる。

 また、当面サービスが切り替わることになれば、ケアマネジャーが作成するケアプランも変更される(プラン変更は「サービス切り替わり」の事後でも構わない)。問題は、ケアプランが大幅に変更される場合、制度上ではそのつどサービス担当者会議の開催が義務づけられている点だ。居住空間が限られている場合、そこに多人数が集まることには感染リスクを気にするケースも出てくるだろう。(なお、単に「サービスの曜日」を変えたり一時的に「週1回程度の利用増減」を行うといったケースは、利用者の状態に大きな変化が見られない限り、「軽微な変更」として必ずしも会議の実施は義務づけられていない)

 そこで、これも特例として上記のような「サービスの切り替え」などを行ったケースでのケアプラン変更時でも、事前に利用者の同意を得た場合にはサービス担当者会議の「実施は不要」という通知も出されている。「サービス切り替えによる利用者の状態が不安」といった場合には、担当者同士が電話やメールでやり取りをするという方法もある。

 注意したいのは、こうしたサービスの休止や切り替え等により、利用者の状態悪化や家族の介護負担が一時的に増すことも懸念される点だ。「今の介護状況は厳しい」となった場合は、躊躇せず担当ケアマネジャーに連絡し、休止していない事業所を探してもらうなどの対処をお願いしたい。この場合、ぎりぎりまで我慢することがかえって対応を難しくしてしまうこともある。「今は緊急事態」ではあるが、先々のリスクを見すえて「我慢しない」という心構えも必要になる。

※この記事は4月16日現在の情報等に基づいています。

2020.05.07

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題