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No.3898 新型コロナが脅威となる中での診療の緩和策 
~報酬改定でも注目の通信機器活用との関係~

● 慢性疾患で外来通院する患者の感染リスク

 新型コロナウイルス感染症の脅威が、日本全土を覆っている。現在、国は「感染疑い例※1」に該当する患者のために「帰国者・接触者外来」を設けているが、自己判断でいきなり受診することは、仮に感染者でない場合の感染リスクを高めたり、その外来医療機関に受診者が殺到するなどして機能をマヒさせかねない。そのため、「帰国者・接触者外来」を設置している医療機関は公表されておらず、別に厚労省が示している「相談の目安となる症状例※2」に該当する患者などについては、まず保健所の「帰国者・接触者相談センター」に相談するようにという周知が図られている。

 問題は、「一般外来の患者に感染者が紛れることはないのか」という不安を抱く患者もいることだ。実際、愛知県で発熱・嘔吐で入院した高齢患者が新型コロナウイルスで陽性反応を示し、救急と外来患者の受入れを停止している。こうした事態が生じると、慢性疾患で通院する患者が外来受診を控え、症状悪化のリスクが高まることにもなりかねない。

 そうした中、2月25日に政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」が発した基本方針の一部に注目が集まっている。それは、「風邪症状がない高齢者や基礎疾患を有する者」、つまり重篤化するリスクが高い患者に対し、感染予防の観点から示された方策である。具体的には、「継続的な医療・投薬等」について「電話による診療等により処方せんを発行するなど、極力、医療機関を受診しなくてもよい体制を構築する」というものだ。

 この方針を受けて、2月28日には厚労省の医政局から全国自治体の衛生主管部局等に事務連絡が出された。それによれば、対象患者が複数回以上受診しているかかりつけ医が「その利便性や有効性が危険性等を上回る」と判断した場合において、「それまで処方されていた慢性疾患治療薬を電話や情報通信機器を用いた診療で処方すること」は差し支えないというものだ。ここで頭に浮かぶのは、2018年度の診療報酬改定で可能となったオンライン診療料等との兼ね合いである。

● 診療報酬上でオンライン診療料の要件は?

 オンライン診療料等については、あくまで「リアルタイムでのコミュニケーション(ビデオ通話)が可能な情報通信機器」を用いることと、「対面診療とオンラインによる診察を組み合わせた療養計画の作成」が必要である。また、算定の対象となる疾患の範囲も定められている。これは、医師法第20条(無診察診療等の禁止)と照らしたうえで、長年の議論を経て特例的に定められた評価といえる。

 もちろん、今回の通知に基づいた対応でも、一律にオンライン診療料が算定できるわけではない。だが、少なくとも①厚労省が示す対象患者(特定疾患や難病、透析患者など)以外で、②電話による診察でも、定期受診患者にもともと処方されていた治療薬を処方することは可能となる。今回の新型コロナウイルス感染症をめぐる状況の中で、医師法第20条に違反するか否かについて、医療機関の懸念を払しょくすることにはなるわけだ。

 ちなみに、オンライン診療料等については、2020年度の診療報酬改定で、①初診から必要となる対面診療の期間が緩和されたり(6か月以上を3か月以上に)、②対象患者に定期通院が必要な慢性頭痛患者を加えるなどの見直しが行われた。そのタイミングで今回の政府の見直し策が提示されたわけだが、慢性疾患患者の不安解消という観点に立てば、わが国の医療のあり方が大きく変わっていく転機となるかもしれない。

※1 感染疑い例
以下のIおよびIIを満たす場合を「疑い例」とする。

I 発熱(37.5度以上)かつ呼吸器症状を有している。
II 発症から2週間以内に、以下の(ア)、(イ)の曝露歴のいずれかを満たす。
(ア) 武漢市を含む湖北省への渡航歴がある。
(イ) 「武漢市を含む湖北省への渡航歴があり、発熱かつ呼吸器症状を有する人」との接触歴がある。
*今後、定義が変更される可能性もある。

※2 相談の目安となる症状例
「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)」など。
「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合」。
なお、高齢者や基礎疾患等のある方は、上記の状態が2日程度続く場合。

*この記事は3月4日現在の情報等に基づいています。

2020.03.23

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題