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No.3896 いよいよ4月に施行! 配偶者居住権について

● 民法(相続法)改正により創設の「配偶者居住権・配偶者短期居住権」がいよいよ施行

 2018年7月に可決・成立した民法(相続法)改正法において定められた項目の多くについては昨年7月までにすでに施行済みとなっているが、「配偶者居住権および配偶者短期居住権」についても、いよいよこの4月に施行となる(残る一つ、自筆証書遺言保管制度については7月10日施行)。

 この二つの居住権のうち「配偶者居住権」については財産として評価され、遺産分割や相続税課税にも関係する項目であり、施行を目前に控えたこのタイミングでその内容や影響について再度確認をしてみたい。

● 配偶者居住権の概要

 配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身または一定期間において配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利であり、遺言や遺産分割協議による当事者の意思による他、家庭裁判所の審判によって取得する場合もある。財産評価は以下のように計算される。

 なお、居住建物の敷地についても同様の評価が行われる。

 従来であれば、被相続人が居住し所有していた建物については、それで一つのまとまった財産として取り扱う必要があったが、配偶者居住権が創設されることで、「配偶者居住権の価額」と「居住建物の価額」の独立した二つの財産で構成されることとなる。

● 配偶者居住権を活用するメリット

 第一は、被相続人の配偶者が、相続発生後も被相続人の所有建物に安心して住み続けることができるということである。

 また、配偶者が相続発生後に被相続人の所有建物に居住するためその建物を相続しなければならない場合、一般にその建物の価額が大きいために遺産分割が難しくなる、配偶者が相続できる財産が居住する建物だけになってしまうためにその他の財産(現金など流動性資産)の取得ができず、その後の生活資金の確保ができなくなる、などのような事象の解決に、配偶者居住権を有効に活用できる。配偶者にとってのメリットだけでなく、円滑な遺産分割にも貢献が期待できる。

● 配偶者居住権が消滅した場合の税務の取扱い

 配偶者居住権の存続期間は一般に終身であるが、具体的な期間を決めることも可能である。

 存続期間が終身の場合、配偶者の死亡に伴い配偶者居住権も消滅する。居住建物の所有者は配偶者から配偶者居住権を相続することはないため、この相続(二次相続)において配偶者居住権に対する相続税課税は発生しない。また、存続期間が具体的に決められている場合で期間満了となった場合には、配偶者が存命中でも配偶者居住権が消滅するが、居住建物の所有者に移転する経済的価値はないと考え、贈与税の課税は発生しない。

 このように見てみると、一次相続の際に被相続人の所有建物について配偶者居住権を設定すれば、二次相続における配偶者居住権の相続税課税は発生しないため、有効な二次相続対策になり得ることがわかる。

 一方、配偶者居住権そのものの譲渡は認められていないが、存続期間中に当事者の合意や配偶者による権利の放棄によって配偶者居住権が消滅する場合がある。たとえば、配偶者が転居を希望して居住建物から転出することにより配偶者居住権が消滅するような場合、配偶者から所有者に対して居住建物を使用収益する権利が贈与されたものとみなされて、居住建物の所有者に対して贈与税の課税が発生する。また、配偶者居住権の消滅に対価の支払いが伴う場合には、対価を受け取った配偶者に対して譲渡所得課税が発生する(この場合の譲渡所得の計算に適用される取得費については、令和2年度税制改正において確定の予定~執筆現在、国会にて審議中)。

 なお、居住建物の敷地についての配偶者の権利(配偶者敷地権)も配偶者居住権に準じた取扱いとなる。また、相続の開始から最低6か月の居住権を認める「配偶者短期居住権」については、財産評価を伴わない点、配偶者居住権とは区別して理解が必要である。

2020.03.16
(セールス手帖社 堀 雅哉)