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No.3890 わが国でもギャンブル依存症の治療が本格化 
~2020年度診療報酬改定で何が変わる?~

● 世界標準でのプログラム治療を評価

 2月7日の中央社会保険医療協議会(中医協)で、2020年度の診療報酬改定案の答申が行われた。患者側には大病院等受診時の定額負担の拡大、診療側としては医療従事者の負担軽減策などが、それぞれ気になるポイントだろう。こうしたテーマは過去のトピックスでも随時取り上げてきたが、今回は近年大きなトピックとなっているテーマに着目したい。それがギャンブル依存症にかかる治療だ。

 ギャンブル依存症とは何か。医学的には、患者の多くに脳の報酬系と呼ばれる回路の異常が認められている。この報酬系というのは、刺激によって活性化するとドーパミンを放出し、気持ちよさや多幸感などを生む脳の部位のこと。この部位は一定の行動を反復する癖をつける。たとえば、ギャンブルを始めたばかりの頃に大儲けするなど、ドーパミンが大量に放出される経験を繰り返すとする。そうすると、報酬系の感受性が低下し、欲求を満たすためにギャンブルを反復し、「ここで止める」といった意思決定に支障が生じる。

 これが重度化するとギャンブル依存症となるわけだが、上記のように脳の報酬系が異常をきたしている点から、専門的なプログラムによる「治療」が必要となるわけだ。

 もともと診療報酬上では、薬物を中心とした依存症にかかる集団治療プログラムへの評価が定められている。これを再編し、薬物依存症とは別にギャンブル依存症にかかる依存症集団療法への評価を新設したのが今回の改定だ。算定要件についても、ギャンブル依存症にかかる専門の医療機関において、専門研修を受けた専任の精神科医、看護師または作業療法士の配置を求めている。そのうえで、専門のプログラム(ギャンブル障害の標準的治療プログラム)に沿って行うことが必要だ。

 上記の標準的治療プログラムについては、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどで開発された集団認知行動療法プログラムを参考にしている。これら海外の先行プログラムでは、ギャンブルを断ったり頻度を減らすうえで高い効果が認められている。こうした取組みを、わが国でも診療報酬上の評価という形で制度的に位置づけたことになる。

● 精神保健福祉センターの相談件数は急増中

 昨今のギャンブル依存症への対策強化は、2018年7月に成立したギャンブル等依存症対策基本法が基点となっている。同法では、政府にギャンブル依存症対策を実施するための施策措置を求めている。その一つとして、医療提供体制の整備が定められ、今回の報酬改定のベースとなっているわけだ。

 そうした法制上の流れを頭に入れた場合、浮かんでくるのは政府のカジノ振興策との兼ね合いだろう。実際、上記のギャンブル等依存症対策基本法は、カジノを含む統合型リゾート設立を目指したIR実施法とほぼセットで成立している。ただし、こうした事情の有無にかかわらず、近年ギャンブル依存症が深刻化している状況があることに変わりはない。

 国の衛生行政報告例によれば、2018年度に精神保健福祉センターに寄せられた依存症にかかる相談件数は、ギャンブルが5,520件でアルコールを上回り、薬物の5,701件とほぼ肩を並べている。ギャンブル依存症の相談データは2013年度からだが、2018年度までの5年間で約2.8倍の伸びが認められる。ギャンブル依存症は本人だけでなく、家族を中心に周囲にも深刻な影響をおよぼす。多くの当事者、家族の苦しみの緩和に向けたスタートとなるか。そうした視点で注目してみたい。

2020.03.09

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題