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No.3884 介護人材不足に国が打ち出すもう一つの施策 
~介護福祉士国試での「経過措置延長」~

● 介護人材育成の基盤となる養成校が危機に

 介護人材不足が深刻なことは、過去のトピックスでも何度か取り上げてきた。介護分野の有効求人倍率は(全国平均で)4倍近くまで上昇し、全職業の2倍強となっている。一部の特養ホームでも、「空き部屋」はあるものの人員基準が満たせないため、新規入所者の受け入れが困難というケースも発生している。

 そうした中、将来的な人材育成の基盤も揺らぎつつある。それが、介護職の国家資格である介護福祉士の養成校が、施設数・定員数ともに減少の一途をたどっていることだ。定員充足率の平均も、2016年度以降は50%割れが続くという危機的状況にある。

 これに対し、国がにわかに打ち出そうとしているのが、介護福祉士の国家試験義務づけにかかる「経過措置期間」の延長だ。「国家資格である介護福祉士の試験義務づけに経過措置がある」ことはなかなか理解しづらいことかもしれない。まずはこれを解説しておこう。

● 経過措置の間、卒業後5年間は資格を保持

 介護福祉士資格については、①介護職としての実務経験を経るケース(実務経験ルート)と、②養成校を卒業するケース(養成施設ルート)がある(この他に福祉系高校ルートがあるが、ここでは省略する)。もともとは①だけ国家試験の受験が必要で、②については卒業すればそれだけで資格が取得できた。それが、2007年の法改正で①、②ともに一定の研修と国家試験を義務づけることとなった。これは、介護福祉士の社会的地位と資質を向上させるという施策目的からである。

 ところが、介護人材確保が困難な状況の中、改正法の施行がたびたび延期された。①「実務経験ルート」で国家試験前の実務者研修の義務づけは2016年度から実施されたが、②「養成施設ルート」の卒業後の国家試験義務づけには2022年度まで「漸進的な導入を図る」という経過措置が設けられたのだ。

 この「漸進的な導入」とは、以下のようなしくみである。まず、養成校の卒業生(2017~2021年度(2022年3月31日)までに卒業した者)には、以前と同じく介護福祉士が付与される。ただし、その付与は5年間に限られる。その間に国家試験を受けて合格すれば、文句なく介護福祉士となれる。しかし、不合格や未受験の場合は卒業から5年後に資格を失う。

 もし介護福祉士資格を失ったらどうなるのか。その後は「準介護福祉士」という新たな準資格を付与されるが、一部報酬上の人員要件から外れるなど評価は低くなる。さらに問題なのは、国が推し進めている外国人介護人材の受け入れに影響することだ。

● 外国人人材の受け入れにも甚大な影響が!?

 2017年9月から外国人介護人材の受け入れ枠に、留学生が養成校卒業後に介護福祉士を取った場合の在留資格が新たに設けられた。ここで介護福祉士を取れば、その後に介護業務に従事している限り、在留期間の更新に「制限」はない。さらに、家族(配偶者・子)の帯同も可能となる。ということは、経過措置の間なら、国家試験を受けなくても(少なくとも5年間は)上記の在留資格が手にできるわけだ。

 もし、この経過措置が終了したらどうなるか。実は先に述べた養成校の実情だが、定員充足率は低迷しているが、外国人留学生の割合は新たな在留資格ができて以降、急速に伸びている。まさに苦境にある養成校は、外国人留学生の手で何とか支えられているわけだ。仮に経過措置が終了した場合、この「支え手」が一気に減少する可能性が高い。そうなれば、日本人の介護人材にとっても、養成基盤が喪失しかねない危機に直面することになる。

 こうした状況を受けて、2019年11月の厚労省の社会保障審議会(福祉部会)では、経過措置の延長が論点として上がった。また、介護業界3団体(全国老人福祉施設協議会など)は経過措置延長の要望書を、与党・自民党の政務調査会に提出している。介護人材不足をめぐって、今後もこうしたしくみの見直しが増えていくかもしれない。

2020.02.25

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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目 次

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  • 第2章 【応用編①】対医療連携で医師を振り向かせるにはどうしたらいいのか
  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題