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No.3880 がんと仕事の両立

 がんは、男女ともに日本人の死亡原因の1位を占めていますが、近年の診断技術や治療方法の進歩や早期発見により、がん患者の生存率は大きく向上しています。しかし、労働者の中には、仕事上の理由で適切な治療を受けることができない場合や、がんに対する労働者自身の不十分な理解や、職場の理解・支援体制不足により、離職に至ってしまう場合があり、バックアップ体制の整備、個人情報に配慮した上での周囲の理解が不可欠です。

 治療と仕事の両立支援の推進については、働き方改革実行計画の中でも、事業場が取り組むべき課題として掲げられています。ここでは、事業場におけるがんと仕事の両立への取組について説明いたします。

<両立支援を行うための環境整備>

  1. 事業者による基本方針等の表明と労働者への周知
    基本方針や具体的な対応方法等の事業場内ルールを作成し、全ての労働者に周知することで、両立支援の必要性や意義を共有し、治療と仕事の両立を実現しやすい職場風土を醸成すること。
  2. 研修等による両立支援に関する意識啓発
    当事者やその同僚となり得る全ての労働者、管理職に対して研修等を通じた意識啓発を行うこと。
  3. 相談窓口等の明確化
    労働者が安心して相談・申出を行える相談窓口、当該情報の取扱い等を明確にすること。
  4. 両立支援に関する制度・体制等の整備
    就業時間に一定の制限が必要な場合、出勤時間をずらす必要がある場合などがあることから、休暇、勤務制度について、検討、導入し、治療のための配慮を行うことが望ましい。

<両立支援の進め方>

  1. 両立支援を必要とする労働者が、支援に必要な情報を収集して事業者に提出
  2. 事業者が、産業医等に情報を提供し、就業継続の可否、就業上の措置及び治療に対する配慮に関する産業医等の意見を聴取
  3. 事業者が、主治医及び産業医等の意見を勘案し、就業継続の可否を判断
  4. 事業者が就業継続可能と判断した場合、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容・実施時期等を事業者が検討・決定し、実施
  5. 事業者が労働者の長期の休業が必要と判断した場合、休業開始前の対応・休業中のフォローアップを事業者が行うとともに、主治医や産業医等の意見、本人の意向、復帰予定の部署の意見等を総合的に勘案し、職場復帰の可否を事業者が判断した上で、職場復帰後の就業上の措置及び治療に対する配慮の内容・実施事項等を事業者が検討・決定し、実施
    ☆両立支援の検討に必要な情報☆
    ア 症状、治療の状況
    イ 退院後又は通院治療中の就業継続の可否に関する意見
    ウ 望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の可否、出張の可否等)
    エ その他配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保や休憩場所の確保等)
  6. 『両立支援プラン』の策定
    ア 治療・投薬等の状況及び今後の治療・通院の予定
    イ 就業上の措置及び治療への配慮の具体的内容及び実施時期・期間
    • 作業の転換(業務内容の変更)
    • 労働時間の短縮
    • 就業場所の変更
    • 治療への配慮内容(定期的な休暇の取得等) 等
    ウ フォローアップの方法及びスケジュール(産業医等、保健師、看護師等の産業保健スタッフ、人事労務 担当者等による面談等)
  7. 『職場復帰支援プラン』の策定
    職場復帰支援プランの策定に当たっては、産業医等や保健師、看護師等の産業保健スタッフ、主治医、必要に応じて、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等や、地域の産業保健総合支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等の支援を受けることも考えられる。
    また、退院や治療の終了と同時にすぐに通常勤務に復帰できるとは限らないことに留意が必要である。

【参照】 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(厚生労働省) 平成31年3月改訂版

2020.02.17

沖田 眞紀(おきた・まき)

特定社会保険労務士
社労士事務所コンフィデンス

千葉県出身。大手電機メーカーをはじめ、介護施設、建設関連会社等様々な業種で、人事労務を担当。長年の実務経験を活かし、現在は人事労務相談・助成金手続・就業規則作成などを中心に社会保険業務および各種相談業務を行っている。