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No.3876 増え続ける高齢者の救急搬送。事故防止のための対策は?

● 救急搬送の割合にも少子高齢化の影響が

 昨年末に消防庁から公表された「令和元年版 救急・救助の現況」によれば、平成30年中に救急車で搬送された人の数は約596万人と、前年の約574万件から伸びを見せました。救急車で搬送される人は年々増加傾向にあり、平成10年の約355万人と平成30年の人数を比較すると、約1.7倍になります。

 搬送された原因の内訳で主なものを挙げると、急病が65.3%、一般負傷が15.3%、交通事故が7.4%となっています。それぞれの推移では急病と一般負傷が増加傾向にあり、交通事故は減少傾向です。また年齢区分別の割合では、下表のように高齢者が59.4%と半数以上を占め、平成10年の35.1%から大幅に増加しています。ここにも少子高齢化の深刻な影響が出ているといえるでしょう。

【年齢区分別の救急自動車による搬送人員(平成30年中)】

年齢区分 搬送人員数 構成比
新生児(生後28日未満) 13,317人 0.2%
乳幼児(生後28日以上満7歳未満) 266,032人 4.5%
少年(満7歳以上満18歳未満) 205,897人 3.5%
成人(満18歳以上満65歳未満) 1,935,986人 32.5%
高齢者(満65歳以上) 3,539,063人 59.4%

出典: 総務省消防庁「令和元年版 救急・救助の現況の公表」

● 日常生活の事故の原因は転倒が大多数

 救急車で搬送される原因のうち、特に注目したいのが一般負傷です。日常生活での転倒や階段の踏み外しなどで、場合によっては重症や死亡につながることもあります。とりわけリスクが大きくなる高齢者の事故について、東京消防庁はデータをもとに注意喚起しています。

 東京消防庁管内では平成26年から平成30年の間に、36万人以上の高齢者が、日常生活の中における事故(交通事故を除く)で救急搬送されました。事故の原因の割合をみると「ころぶ(転倒)」81.7%、「落ちる(転落)」10.7%、「ものがつまる(誤飲・誤嚥)等」2.6%、「ぶつかる」2.0%、「おぼれる」0.9%と続きます。中でも大多数を占める転倒の具体例では、「玄関先で段差につまずいて頭部を負傷」「廊下で滑って腰部をぶつけ動けなくなる」といったものがあります。同じく転落や誤飲でも「蛍光灯の取り付け作業中にバランスを崩し脚立から転落」「薬を服用する際に誤って包装シートごと飲んでしまった」など、ごく身近な場面で起こる例が少なくありません。

● 事故防止の工夫が家族全員を守る

 長期入院にもつながりかねない日常生活の事故を防ぐには、以下のような点に注意が必要です。

  • 立ち上がる時は近くのものにしっかりつかまる。着替える時は無理して片足立ちせず腰かける。
  • 家庭内でよく通る場所に雑誌や電源コードなど、障害物を置かない。
  • 段差は急がず慎重に乗り越える。廊下などに段差解消スロープをつける。
  • 可能ならば階段に握りやすい手すりを付けたり、滑り止めマットを敷く。
  • 外出時の歩行も段差や滑りやすい路面に注意する。
  • 食べ物は小さく切ってよく噛む。お茶など水分をとりながら食事する。

 いずれも当たり前と思えるポイントですが、実際に事故防止の対策をあまり行えていない家庭もあるでしょう。加齢によって以前は難なくできていた動作ができなくなることは、当人としては心情的に受けいれがたいかもしれません。しかし取り返しのつかない事故の後に初めて身体機能の低下を自覚するよりは、起こりうる事故に備えて早目の対策を取った方が賢明といえます。

 また、冬場には「おぼれる」事故が多く発生し、他の原因に比べて重症以上となりやすいのも特徴です。具体的には湯船で意識を失って顔が浸かるなど、入浴中に起こるケースが増加します。冬場に起こりやすい背景としては浴室の外と湯船の寒暖差で、血圧が変動することなどが挙げられます。それを防止するためには、「食後や飲酒後は入浴しない」「脱衣所を暖めておく」「入浴前は家族に知らせる」「長湯や高温浴を避ける」「湯船からゆっくり立ち上がる」といった対策を取ることが大切です。

 以上のようなリスクは高齢者に限らず、あらゆる年齢層にあてはまります。事故防止のための工夫は、家族全員を守るものになるでしょう。

参照:
総務省消防庁「令和元年版 救急・救助の現況の公表」
東京消防庁「救急搬送データから見る高齢者の事故」

2020.02.10
(セールス手帖社 栗原賢二)