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No.3855 厚労省のパワハラ指針素案、パワハラ例を多数提示

● パワハラに該当する、しないと考えられる例を提示

 企業にパワハラ防止等を義務づける「女性活躍・ハラスメント規制法」が2019年5月に成立し、パワハラ対策については大企業が2020年4月、中小企業が2022年4月に施行される。

 それを受けて厚労省は、2019年10月の労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)で「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」(以下、指針素案)を提示したが、その内容が話題になっている。

 指針素案では、パワハラを「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」と定義づけている。

 また、パワハラ言動の代表的類型を以下の6つで示している。

(1) 暴行・傷害(身体的な攻撃)

(2) 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

(3) 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

(4) 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

(5) 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

(6) 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 今回の指針素案について労働者側弁護団などからは、実効的なパワハラ防止策となっていないばかりか、むしろパワハラの範囲を矮小化し、労働者の救済を阻害するものであるといった批判が出ており、厚生労働省は最終案をまとめるにあたり内容を見直すことも考えられるが、パワハラ例が多数あるので参考にしてみてはいかがだろう。

● 指針素案を機に、社内に該当例はないか探してみよう

 パワハラに該当するかどうかは、実際にはなかなかわかりにくいところである。上記(1)の暴行や(2)暴言などは例を挙げるまでもないが、(3)~(6)については、頭ではパワハラとわかっていても職場で実際によく見かけられるケースも載っている。そこで指針素案に掲載されている例の中から以下の4つについて、(3)~(6)のうちのどの類型に当てはまるのか、またパワハラに該当するかどうかを判断してもらいたい(該当すると考えられるものは○、該当しないと考えられるものは×。解答は文末に掲載)。

第1問: 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

第2問: 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

第3問: 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。

第4問: 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。

 パワハラというと、上司から部下への暴力や罵倒等の行為を思い浮かべる人が多いだろうが、不可能な仕事を与えること、逆に嫌がらせのために仕事を与えないこともパワハラである。また、上からだけでなく、同僚や部下からの集団的ないじめや無視、プライベートを勝手に公表されることもパワハラの一環であり、看過できない問題である。

● 相談できる職場環境整備を

 パワハラに該当するかしないかの線引きは難しいこともあるが、パワハラの被害に遭ってもさまざまな理由から泣き寝入りする人が多いというのが現状だ。厚生労働省のサイト「あかるい職場応援団」掲載の調査データによると、パワハラを受けた人は32.5%で、その人たちにパワハラを受けた後でどのような対応をしたかを尋ねたところ、40.9%が「何もしなかった」と回答している。

 相談しても仕方がない、相談したら余計状況が悪化するのではないかという懸念が消極的な姿勢につながっているのであろう。上司や同僚と常日頃から円滑なコミュニケーションを取れる雰囲気づくり、どのような言動がパワハラに該当するのか従業員への周知、相談窓口の設置と活用の呼びかけ等、企業の努力が求められる。

 パワハラを受けた従業員が就業意欲を失い、メンタルヘルスに問題を発生させて退職してしまっては会社にとって大きな損失である。パワハラを許さない企業風土の育成が重要である。

解答……第1問:(6)○、第2問:(4)○、第3問:(5)○、第4問:(3)○

参考:
厚生労働省「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」
厚生労働省「あかるい職場応援団」

2019.12.23

庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)

株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/