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No.3854 介護サービス「利用者負担増」の行く先 
~財務省等は何を目標にしているのか?~

● 利用者の実行負担率、実は1割未満!?

 2020年に再び法改正が予定される介護保険制度(施行は2021年度見込み)。この制度改革の主テーマの一つとなっているのが、年間10兆円超(2018年度介護給付費等実態統計による給付費、公費負担、利用者負担の合計)に至った費用額をめぐり「負担と給付の関係」をどのように見直すかという点だ。具体的には、現行1~3割の利用者負担割合をどうするか、そして、月あたりの負担限度額を引き上げるかどうか(負担限度額を超えた分は高額介護サービス費として払い戻される)がポイントとなる。

 前者の負担割合については、財政をつかさどる財務省側が、「利用者負担原則2割」を建議している。後者の自己負担限度額については、政府の改革工程表に示されている「現役並み所得区分の見直し」により、一部引き上げに向けた検討が厚労省内で続いている。

 これらについて、年内にも見直し案が取りまとめられる予定だが(見直し案をもとにした法案作成および法案成立後の政令改正作業等は2020年)、具体策を打ち出すうえで財務省等が根拠としている数字がある。

 その数字とは、介護保険サービスの利用者全体の「実効的(実質的)な負担割合」がどうなっているかについてだ。「現行では、最低でも1割負担が発生しているのだから、その数字よりは上」と思われるかもしれない。ところが、たとえば2019年度予算ベースで見ると、実効的な負担割合は7.6%にとどまっている。過去の推移を見ても8%を上回っているケースはない。あくまで財務省側のデータだが、同じく介護保険制度を導入しているドイツでは約3割、韓国では約2割なので、「日本はかなり低い」という印象になる。

 なぜ「1割以下」となるのかといえば、先に述べた高額介護サービス費による「払い戻し」などが影響している──これが財務省の分析だ。つまり、実行負担割合1割というのが、給付と負担の関係を考えるうえでの目安としてかかげられていることになる。

● 所得・年収基準の見直しという流れが大

 そのうえで、どのような改革案が出てくるか。まず、負担割合だが、現状では「年間所得金額160万円以上」のケースを原則2割としている(年金収入等により例外あり)。この所得基準を、実行負担率10%に近づける方向で段階的に引き下げることが考えられる。一方、月あたり自己負担限度額については、「現役並み所得相当」の区分(現行で月4万4,400円)を医療保険の「70歳以上の負担限度額の区分」と揃える案が上がっている。具体的には、「現役並み所得」を年収に応じてさらに3区分するというもの。これにより、年収約770万円以上の限度額アップが想定される。

 なお、後者の自己負担限度額については、「一般区分(年収約383万円未満で市町村民税課税世帯)」について、別に年間上限額(44万6,400円)が2020年7月までの時限措置として設けられている。これについては、措置期間延長の話も出ているが、上記の負担増という議論の流れを考えるとそのまま「延長しない」という可能性が高いだろう。

 介護サービスについては、他にも(現行は無料である)ケアマネジメントへの利用者負担導入や、施設の補足給付判定における預貯金基準(現行で夫婦世帯2,000万円超)の見直しなどの議論も進行中だ。今後の政府内の動き、たとえば官邸主導で行われている全世代型社会保障検討会議などでの検討状況などにも目を凝らしておく必要がある。

2019.12.23

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題