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No.3846 「住宅型」の有料老人ホームが急増中 
~老後の住まいの「質の確保」策は?~

● 有料老人ホームの「介護付き」と「住宅型」の違い

 2020年に予定される介護保険制度の見直しに向け、厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会での議論が続いている。この部会において、10月28日に興味深い資料が提示された。2025年に団塊世代が全員75歳以上を迎えるにあたり、住み慣れた地域で人生の最期まで暮らすには、医療・介護サービス資源のみならず、たとえばバリアフリー化された高齢者向け住まいのあり方が課題となる。この高齢者向け住まいの質の確保をどうするかというテーマに関連して提示された資料だ。

 高齢者の生活状況に配慮した住まいといえば、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などがあげられる。注目したいのは、このうちの有料老人ホームの整備状況に関するデータだ。介護が必要な人でも入居できる有料老人ホームには、「介護付き」と「住宅型」がある。前者は、住居と介護保険サービスがセットになっているというスタイル。後者は、介護保険サービスはセットになっておらず、介護保険サービスが必要になった場合には、一般の住居と同じく外部の事業者にサービスを依頼するという形になる。

● 介護付きと住宅型の整備数逆転。その背景

 さて、両ホームの利用者数は、2016年までは「介護付き」の方が多かった。それが2017年に逆転し、2018年時点では「介護付き」が約24万人に対し、「住宅型」は約27万人と3万人近く多くなっている。

出典: 厚生労働省 第84回社会保障審議会介護保険部会「参考資料1 介護サービス基盤と高齢者向け住まい」

 また、直近3年間の整備量(定員数)の増加を見ても、「介護付き」が約2万人分に対して「住宅型」は4倍近い約8万人分となっている。この「住宅型」の整備量は、特養ホームをも上回る。

 こうした逆転現象が起きた背景の一つとされるのが、恒常化する介護人材不足だ。たとえば、2018年度の介護関係職種の有効求人倍率は3.95で、全職業1.46と約2.7倍もの開きがある。特に東京都や愛知県では、介護関連職種の有効求人倍率が6倍を超えている。

 ここで頭に入れておきたいのは、「介護付き」有料老人ホームの場合、介護保険サービスがセットになっているゆえに、配置すべき人員の基準は介護保険法令で定められていることだ。利用者数に対して必要な人員が確保できないとなれば、定員を減らすより他はない。

 これに対し、「住宅型」では介護保険サービスは外部からの提供になり、ホーム本体側のスタッフに介護保険法令上の人員配置基準は適用されない。有料老人ホームの定義上は、「入浴、排せつ、食事の介護(介護保険外)」「食事の提供」「洗濯、掃除などの家事」「健康管理」のいずれかのサービスが提供されるが、それにかかわるスタッフ数は法令に縛られないわけだ。となれば、厳しい介護人材不足に照らせば、ホーム運営者としては、人員配置が法令で縛られる「介護付き」よりも「住宅型」に参画する流れとなりやすい。

● 介護相談員の派遣を「住宅型」にも!?

 入居者としては、たとえ「住宅型」であろうとも、高齢になれば身の回りの世話をお願いしたいというニーズは高まるもの。それに(スタッフ不足で)応えられないという状況が広がっているとすれば、高齢期の住み替え市場を揺るがしかねない。ひいては、国が目指す「住み慣れた地域で人生の最期までその人らしく暮らす」という地域包括ケアのビジョンにも影響をおよぼすことになる。

 厚労省は、介護保険の枠内で行う「介護相談員派遣事業」(市町村に登録する介護相談員が介護保険施設等を訪問し、入所者の相談援助を行うというしくみ)を、住宅型有料老人ホームにも適用する方向性を示している。これにより、内部のサービスの質についてチェックを入れやすくしようというわけだ。ここで老人福祉法違反(入居者の処遇に関する不当な行為など)が発見されれば、都道府県による業務改善命令等が出せる。

 だが、現状は自治体の任意事業で、相談員数も全国で約4,300人にとどまる。これを自治体の必須事業とするのか、別に新たな「外部の目」を入れるしくみを作るのか。今年末までには介護保険部会での取りまとめに反映される予定だ。高齢期の住み替えへの不安を解消できるかどうか、注目したいテーマだ。

2019.12.09

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第2章 【応用編①】対医療連携で医師を振り向かせるにはどうしたらいいのか
  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題