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No.4595 上場廃止になった株式の課税関係

 東芝の非上場化を目指す株式の公開買い付け(TOB)が成立したことに伴い、令和5年12月20日をもって上場廃止になることが決定しました。これにより上場廃止後の東芝株式は、非上場株式となります。今回は、上場株式が非上場株式になる場合の課税上の留意点を取り上げたいと思います。

● 上場株式と非上場株式の売却時の課税関係

 まずは上場株式を売却した場合の課税関係について説明します。売却により生じた利益に対して税率20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)が課税されます。なお特定口座(源泉徴収あり)で運用している場合には、売却益に対する税金が、売買代金から源泉徴収としてあらかじめ天引きされるため、売却益を申告する必要はありません。ただし、後述する譲渡損失の繰越や繰越控除の適用を受けたい場合には、損失が生じた年以降は確定申告が必要になります。

 売却により生じた損失については、他の上場株式の売却益と損益通算を行い、損益通算してもなお損失が大きい場合には、上場株式の配当と損益通算をすることができます。それでもまだ損失が残る場合には、翌年以降3年間にわたり損失を繰り越し、その間に発生する上場株式の売却益や配当所得と相殺させることができます。これを譲渡損失の繰越控除といいます。

 そのためには損失を繰り越すための手続きと、繰越控除を受けるための手続きとして、毎年確定申告が必要になります。特定口座(源泉徴収あり)で運用していると申告しなくてもよいと考えてしまい、手続きを失念してしまうケースが多いのでご留意ください。

 一方、非上場株式を売却した場合の課税関係についてですが、売却により生じた利益に対しては、上場株式と同様に税率20.315%が課税されます。上場株式と違い、特定口座の制度はないので、売却益が生じた場合には申告が必要です。

 売却損については、他の非上場株式の売却益とのみ損益通算が可能です。上場株式の売却益とは原則として通算はできません。また上場株式と違い、非上場株式の配当との損益通算ができず、さらに損失を繰り越すといったこともできません。

参照:
 国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
 国税庁 No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い
 国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除

● 上場廃止後における少数株主からの株式の買取り

 今回のTOBに応じなかった少数の株主が保有する株式は、上場廃止後に、株式併合という会社法上の手続きにより1株に満たない端数になり、裁判所の許可を得て強制的に公開買付者が買い取ることが決定しております。

 いうまでもなく上場廃止後は非上場株式としての取り扱いとなり、株式併合により生じた株式の売却益は申告が必要になります。また売却損が生じる場合には、上場株式との損益通算、配当等との損益通算、損失の繰越控除などの適用はありません。

● 国民健康保険等の保険料、医療費の窓口負担への影響

 非上場株式の売却益は申告が必要になりますが、申告をすれば当然その年の所得として認識されることになります。国民健康保険や後期高齢者医療保険は、所得に応じて保険料が決まるため、申告をしたことでその翌年度の保険料負担が増える可能性があります。なお、会社勤めの方が加入する社会保険料には基本的には保険料負担の影響はありません。

 また医療費の窓口負担は、3割負担になっている現役世代やそれ並みの所得がある方には影響ありませんが、70歳以上の方で、窓口負担が普段1割~2割になっている方は、申告することにより翌年度の負担が3割になる可能性があるため注意が必要です。

● 上場廃止が決定している株式を売却するタイミングは?

 上場廃止後は非上場株式として取り扱うことになるため、保有している他の上場株式等との損益通算等を検討している場合には、上場廃止前に売却することが必要になりますのでご注意ください。

 また保険料負担や医療費の窓口負担への影響を回避したいのであれば、上場廃止前に特定口座(源泉徴収あり)内で売却手続きをして、申告不要を選択することで影響を回避できます。

 筆者の個人的な見解としては、よほど特殊な事情がない限り、上場廃止前に売却してしまった方が有利になるケースが多いと思われます。

2023.12.25

清塚 樹(きよづか・たつき)

税理士。清塚樹税理士事務所 代表。
群馬県出身。大手税理士法人の勤務を経て2022年に独立。独立と同時に、豊富な知見と実務経験を有した税理士が集まるプラットフォームとして、レアル合同会計事務所を立ち上げる。大手証券会社・住宅メーカー・保険会社などから、資産税に関する税務相談を数多く受ける。専門領域は、相続・事業承継のほか、公益法人の会計税務も得意としている。
事務所HP:https://www.real-tax.jp