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No.4590 清算型遺贈寄付をする場合、その課税関係は?

● 不動産などの遺産売却に係る譲渡所得は誰に帰属?

 被相続人が遺言によって自身の財産を非営利団体などに寄付することを「遺贈寄付」といいますが、近年、おひとり様の相続が増加していること、親族間のつながりが希薄化していることなどを背景に、遺言に基づいて相続財産のすべてまたは一部を売却して、遺言者の債務を弁済したうえで、残ったお金を遺言に指定された個人や法人へ遺贈するケースが増えております。このような遺贈寄付を「清算型遺贈」とよび、本稿では公益法人など社会貢献活動をしている非営利団体に清算型遺贈により遺贈寄付するケースをとりあげて課税関係がどうなるかを見てみたいと思います。

 例えば、不動産を清算型遺贈の対象として、2つの法人に遺贈寄付する場合には、遺言に次のように記載します。

 「遺言者は、遺言者の有する不動産を売却し、その売却代金から、売却にかかる諸経費、遺言執行者に対する報酬及び遺言者の債務・負担を控除した残額を公益財団法人A、社会福祉法人Bに各2分の1の割合で遺贈する。」

 このとき、相続税と不動産の売却に係る譲渡所得税の課税が発生します。相続税は個人に課税されるため、この事例では法人が受遺者であり相続税の納税義務者にはならず、相続税課税の問題は発生しません。一方、不動産の売却に係る譲渡所得の納税義務については、誰に帰属するかが税務上明確になっておらず、遺言の法律的な性質を分析した上で課税関係を整理する必要があります。

● 特定遺贈(不特定物遺贈)か包括遺贈かで判断は別れる!?

 そもそも清算型遺贈は、その遺贈の目的物が相続財産そのものではなく、売却代金である金銭と考えられていることから、一義的には特定遺贈の一種である不特定物遺贈として考えられています。また、不動産を清算型遺贈の対象とするには、一旦相続人に相続登記による名義変更をする必要があり、売却時点では相続人名義で売却することになります。

 譲渡所得課税は、原則として譲渡した資産の所有者が所得帰属者として納税義務者になり、その考えからすると、形式的には譲渡所得は相続人に帰属し、相続人に譲渡所得税が課税されると考えられます。一方、所得税には、法律上の所有者は単なる名義人であって、名義人以外の別の者がその資産から生じる収益を享受する場合には、その収益は、その別の者に帰属すべきものとする「実質所得者課税の原則」という取り扱いがあり、この考え方に照らせば、清算型遺贈により売却資金を享受するのは受遺者であり、その資産の売却により生じた譲渡益は、受遺者に帰属すると考えることができます。以上から、一般的には後者の考え方により受遺者が納税義務者と考えられています。

 次に、遺言に債務の清算や割合による相続財産の指定があった場合には包括遺贈として取り扱われますが、包括受遺者には相続開始と同時に遺贈の対象となった不動産の物権的効力が生じると考えられていることから、この場合は遺贈寄付を受ける受遺者が所有権者となり、譲渡所得は当該受遺者に帰属することになると考えられ、納税義務者となります。

● そもそも個人が法人へ不動産を寄付するとみなし譲渡課税が発生

 以上のように、清算型遺贈における譲渡所得の帰属は、受遺者に帰属すると考えることができそうですが、例えば事例のように遺言によって公益財団法人と社会福祉法人に不動産を寄付する――つまり、個人から法人への不動産などの財産の無償譲渡には、みなし譲渡課税といって、その時点の時価で譲渡したものとして譲渡した個人に課税すると規定されています。

 時系列でいえば、不動産の売却よりも前にこのみなし譲渡の規定が発動すると考えられることから、不特定物遺贈であっても、包括遺贈であっても、被相続人における準確定申告が必要になると考えられます。

 ただし、国税通則法5条の規定により、被相続人の租税債務は、相続人および包括受遺者が承継するとあることから、みなし譲渡に係る税金は、包括遺贈の場合には包括受遺者に承継され、不特定物遺贈の場合には相続人に承継されることになると考えられます。そのため、後者の場合には、相続人は財産(寄付される不動産)を取得できないにもかかわらず、譲渡所得税が課せられることになるため、相続人の納税方法を手当するなどの対応が必要です。

 大事なことは、遺言作成時において、その遺言がどういった法律的な効果をもたらすのかを十分理解した上で、遺言を作成することが重要です。

参照:
 国税庁 換価遺言が行われた場合の課税関係について
 国税庁 人格のない社団に対する資産の寄附とみなし譲渡課税

2023.12.11

清塚 樹(きよづか・たつき)

税理士。清塚樹税理士事務所 代表。
群馬県出身。大手税理士法人の勤務を経て2022年に独立。独立と同時に、豊富な知見と実務経験を有した税理士が集まるプラットフォームとして、レアル合同会計事務所を立ち上げる。大手証券会社・住宅メーカー・保険会社などから、資産税に関する税務相談を数多く受ける。専門領域は、相続・事業承継のほか、公益法人の会計税務も得意としている。
事務所HP:https://www.real-tax.jp