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No.4573 芸能ニュースで話題となった事業承継税制、そのデメリットやリスクは?

● 一見、無税で後継者に自社株を承継できるようだが……

 事業承継税制については、世間を賑わした某有名芸能事務所も活用していたことで話題になりました。一部メディアは最初の謝罪会見で社長が代表取締役を辞任しなかった理由として、「後継者は5年間代表者であること」という同制度の適用要件が満たせなくなって莫大な相続税を納めねばならなくなるからではと推測していました。

 このように、同制度は経営者等から後継者へ納税負担なく非上場株式(自社株)を承継できるという点でかなり魅力的に見えますが、その一方で、適用要件が複雑で事務手続きが煩雑というデメリットや、要件を充足できないと猶予が打ち切りになるというリスクがあります。

 本制度は、あくまでも納税の猶予制度であるため、適用を受けた後も猶予を受け続けるためには、適用要件を充足し続けなければなりません。

参照:非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

● 安易な活用は要注意!リスク・デメリットをきちんと理解!

 事業承継税制は、適用できれば自社株にかかる贈与税や相続税の納税を猶予してくれる大変便利な制度ですが、一方で適用においてはリスク・デメリットがあります。それらについて以下にまとめてみました。記載は筆者私見であることをあらかじめ申し添えておきます。

・ 複雑な制度の落とし穴に要注意!
 本制度は「租税特別措置法」で定められている制度であるほか、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(通称:円滑化法)」も絡んでいます。思わぬ落とし穴にはまらないように、適用にあたっては、両方の法律の条文をよく確認して実行する必要があります。適用を検討している場合には、事業承継を専門とする税理士にまずは相談することをお勧めいたします。

・ 適用を受ける場合の猶予される税金と専門家報酬を比較検討!
 事業承継税制を適用するためには税理士などの専門家の協力が不可欠ですが、専門家への依頼はそれなりの金額になることが予想されます。上述した通り、適用時はもちろんのこと、猶予し続けるためには、その後も要件の確認や手続きを含め定期的なメンテナンスが欠かせず、こちらも別途報酬がかかる場合が多いと思われます。適用時と適用後の報酬等と、猶予される税金等を比較検討することをお勧めいたします。

・ 適用後、打ち切り事由に該当しないように細心の注意を払う!
 万が一、打ち切り事由に該当してしまった場合には、猶予されていた税金と、それまでに発生した利子税をあわせて納税する必要があります。猶予されていた税金が多ければ多いほど、当然利子税の負担もかなり重たいものになります。

・ 特例制度は適用期限あり!自社の事業承継スケジュールから逆算して適用を検討!
 現行の事業承継税制は、2027年12月31日までに適用(申請は2024年3月31日まで)すれば、特例制度が使えます(注)。同制度の適用を考えるなら、上記の期限から逆算して自社の事業承継のスケジュールを検討することをおすすめいたします。

(注) なお、特例制度の適用期限、申請期限は2023年10月現在のものです。

 筆者の個人的な見解としては、事業承継税制は、あらゆる対策を尽くしてもなお税金が事業承継の大きな弊害になる場合に限って適用すべき、最後の虎の子だと考えております。株価対策、会社の資本構成の見直し、後継者以外の相続人への配慮、自己株式の買い取り(金庫株)や延納・物納の選択、保険の活用等、あらゆる対策を実施・検討した上で、適用可否を判断すべきです。

2023.11.13

清塚 樹(きよづか・たつき)

税理士。清塚樹税理士事務所 代表。
群馬県出身。大手税理士法人の勤務を経て2022年に独立。独立と同時に、豊富な知見と実務経験を有した税理士が集まるプラットフォームとして、レアル合同会計事務所を立ち上げる。大手証券会社・住宅メーカー・保険会社などから、資産税に関する税務相談を数多く受ける。専門領域は、相続・事業承継のほか、公益法人の会計税務も得意としている。
事務所HP:https://www.real-tax.jp