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No.4558 介護従事者も疲労困憊。安全確保のカギは?

● 高齢層の「高齢化」がもたらす事故誘発

 総務省が9月17日に公表した「統計からみた我が国の高齢者」によれば、2023年9月15日時点で「75歳以上の人口」が初めて2000万人を超え、10人に1人が「80歳以上」となった。「65歳以上」の高齢者人口は1950年以降初の減少となったが、団塊世代が75歳以上を迎える中で、高齢層のさらなる高齢化が顕著となったわけだ。

 そうした状況下では、たとえば介護保険サービスの現場でも利用者の高齢化がますます進むことになる。当然ながら日常生活動作(ADL)や摂食・嚥下能力の低下、服薬数の増大、認知症の行動・心理症状(BPSD)の悪化などの傾向も高まっている。これらの状況は、転倒・転落や誤嚥、誤薬、(BPSD悪化による)行方不明などの事故を誘発しやすい。

● 事故防止の要となる従事者の不足は深刻

 一方で、対応する側となる介護従事者の不足は依然として深刻である。公益財団法人介護労働安定センターが公表した2022年度の「介護労働実態調査」によれば、介護職員の人手不足感(大いに不足+不足+やや不足)は69.3%と7割に迫る勢いだ。こうした状況下では、介護サービス利用時の不測の事故により安全を脅かされるケースも増えがちとなる。

 上記の介護労働安定センターが2018年3月に公表した介護サービス利用にかかる事故防止に関する報告書によれば、事故ケースでもっとも多いのが転倒・転落・滑落(65.6%)。その際の状況としては、46.7%が「(利用者の生活行為時の)見守り」となっている。「見守り」とは、従事者が「何もしていない」わけではなく、いざという時に介助に入れるだけの状況観察など継続的な集中力を要する状態のことだ。この「継続的な集中力」という点で、直接介助の場面よりも、従事者のその時々の体調が反映されやすいとも言える。

● 事故防止に必要な集中力を削ぐ勤務の状況

 この従事者の体調に大きな影響を与える業務の1つが「夜間勤務」だ。全国に50の支部がある介護業界の労働組合「日本介護クラフトユニオン(NCCU)」が、今年9月に組合員を対象とした「2023年度就業意識実態調査」の結果を公表した。それによれば、「シフトによって夜間・深夜勤務に就いた人」のうち、「16時間以上」が84.4%だが、「休憩時間」が「120分以上」は39.6%にとどまる。しかも、実際には「休憩の時間がとれていない」ケースも43.3%にのぼる(いずれも月給制組合員対象)。

 なぜ「とれていないか」といえば、「1人夜勤のため職場から離れられないから」が61.7%、「電話対応(ナースコール対応含む)をしなければならないから」が35.9%と多い(複数回答)。人材不足となれば、夜勤配置を人員基準ぎりぎりに設定する施設は増え、国もセンサー等のテクノロジー活用による基準緩和を進める施策を展開し、その適用範囲の拡大も議論している。

● さらなる進行が懸念される介護現場の危機

 しかし、いくらテクノロジーが進化しようと、「1人夜勤」といった状況(たとえば、現状で特養の多床室では利用者25人以下で1人夜勤が認められている)は、十分な休息をとれずに疲労が蓄積するのは必然だろう。それが継続的な集中力を減退させるとすれば、先に述べた事故の増大の可能性はますます懸念される。

 老後の安心が、進行する現場危機に揺らぐとすれば、「高い保険料を払っているにもかかわらず、何のための介護保険か」という疑問も遅からず国民の間に広がっていくだろう。曲がり角にある介護保険制度をどのように立て直すか、根本的な議論が求められている。

2023.10.16

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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