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No.4523 遺言執行者による相続手続き

● 公正証書遺言と自筆証書遺言について

 相続が発生したとき、遺言があると、相続人間で遺産分割におけるトラブルが起きにくいというメリットがあります。よく利用されるものとして公正証書遺言、自筆証書遺言などがあります。

 公正証書遺言は、公証人に依頼して作成してもらうものです。公証人は法律の専門家ですので、作成された遺言が後日要件不備等で無効になる恐れが少ない、紛失・改ざん等の恐れがない、遺言の検認が不要などのメリットがある反面、作成の際に公証人役場に出向く必要がある(公証人に出張してもらう方法もあります)、証人が2名必要、作成に費用が掛かるなどのデメリットがあります。

 自筆証書遺言は、遺言書をすべて自筆で作成するもので(財産目録などはパソコンなどで作成することもできます)、比較的簡単に作成でき、費用が掛からないなどのメリットがある反面、後日要件不備などの理由で遺言が無効とされることがある、紛失・改ざんの恐れがある、原則として検認手続きが必要、といったデメリットがあります。もっとも、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば一部のデメリットが軽減します。

● 遺言執行者を置くメリット

 さて、当然ですが遺言の効力が発生するときにはその遺言を作成した人(被相続人)は亡くなっています。そのとき、被相続人に代わって遺言を執行する人が遺言執行者です。

 遺言執行者は、民法で「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権限」が認められており、財産目録の作成、預貯金払い戻し、株式の名義変更、不動産の登記申請手続きなどを行うことができます。

 例えば、被相続人の銀行預金を解約する際、相続人全員の同意書等を取り付ける必要はなく、遺言執行者が単独で手続きを行うことができ、遺言書に指定された通りに分配することになります。

 その他、様々な手続きにおいて遺言執行者が単独で行うことができるため、相続財産が自宅と預貯金だけといった、それほど複雑ではない案件でも遺言執行者を置くメリットがあります。

 遺言執行者は、被相続人が遺言で指定する方法と、家庭裁判所に選任してもらう方法があります。遺言執行者の選任には弁護士などの専門家だけでなく、相続人の誰か、被相続人の友人など特に制限はありません。遺言を作成する際に信用できる人を指定するのが一番ですが、指定のない遺言書の場合、相続人間で遺言執行者候補を決めて家庭裁判所に選任の申し立てをする方法もあります。

 遺言執行者に関しては事案が複雑な場合などは、弁護士などにすべてを依頼する方法や、司法書士などに家庭裁判所への申し立て手続きを依頼する(審判への出頭や、遺言執行者の職務は自分で行う必要があります)、申立からすべて自分で行うなどの方法があります。

 専門家に依頼する方が良いかどうかは相続財産の額や、相続関係の複雑さなどにより異なってきますので、慎重に検討し、依頼前に「相談」という形で専門家の意見を聞くのも良いでしょう。

 最後に注意が必要な点としては、相続税の申告が必要な場合、遺言執行者が相続税の申告を相続人に代わって行うことはできません(遺言執行者に税理士が選任されている場合などは別論です)。相続税の申告は、相続人自身で行うか、別途税理士などに依頼する必要があります。

参考:民法第1006条~第1021条 裁判所:遺言執行者の選任

2023.08.14
(セールス手帖社 田中一司)