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No.4418 団塊世代の「健康格差」はどこから生じる?

● 厚労省が継続して行なっている「中高年縦断調査」

 数ある厚労省の調査の中から、ちょっと変わったものを紹介したい。それが、特定の年齢層を対象とした「縦断調査」だ。「縦断調査」というのは、ある時点で出生したり一定の年齢を迎えた人を対象として、毎年1回継続的に行なう調査である。たとえば、2010年に出生した人を対象とした調査(21世紀出生児縦断調査)では、直近で2021年度まで11回にわたって継続調査が行われている。

 ここで紹介したいのは、その「縦断調査」のうち中高年を対象としたものだ。具体的には、2005年時点で50~59歳だった人で、最新となる2021年の調査時点では66~75歳以上となっている。お気づきのように、ほぼ団塊世代を中心とした年齢層である。

 調査内容のうち、第1回から継続的に行われているのが「世帯」「健康」「就業」の状況だ。団塊世代が間もなく75歳以上(後期高齢者)に差しかかることも見すえつつ、この中から「健康」について取り上げてみよう。

● 健康状態が「よい」と感じる人の心がけは?

 第1回の調査(2005年10月末時点)で健康状態が「よい」という人は80.6%だった。これが17年後の今調査では、「第1回調査時からずっと『よい』」人は38.3%、「『悪い』から『よい』に転化した」人を含めると39.9%となっている。ほぼ半減だ。50代から後期高齢者への年齢移行においては、これくらいの数字が当然という見方もあるだろう。むしろ「17年前からずっと『よい』」という人が4割近いという点に、現代の高齢者の元気ぶりを感じるかもしれない。

 注目したいのは、「健康維持のために心がけていること」の調査項目(複数回答)における「第1回からずっと『よい』(以下A)」という人と、「それ以外(以下B)」の人との回答率の差だ。調査結果は11項目が上がっているが、いずれもA群の方が上回っている。その中でA群の割合がもっとも高くB群との差が大きいのが「適度な運動をする(Aで13.8%、Bで7.4%)」。他に差が大きい項目としては、「適正体重を維持する(Aで11.5%、Bで6.5%)」「ストレスをためない(Aで10.1%、Bで5.3%)」がある。

 健康といえば日々の食事との関係も気になる。これについては、「食事の量に注意する(Aで11.5%、Bで9.1%)」「バランスを考え、多様な食品をとる(Aで12.8%、Bで8.4%)」という具合に、A群も高いがB群もそれなりの割合を示している。こうして見ると、食事だけに気を配るのではなく、やはり適度な運動との組み合わせがポイントとなるようだ。

● 健診や人間ドックの受診には割と無関心?

 ちなみに、医療関係者が眉をひそめがちなのは、「お酒を飲み過ぎない」「たばこを吸い過ぎない」「年に1回以上健診や人間ドックを受診する」の3項目の回答結果だ。いずれも、A群・B群ともに4%未満となっている。

 この調査はあくまで「主観的な健康状態」をベースとしているので、上記3項目が客観的な健康状況とかかわりが薄いということではない。ただ、全人口割合の高い団塊世代前後の人々にとって、「何が健康に影響していると考えているのか」を知る上では意義がありそうだ。

 現在、国は「健診や人間ドックによる疾患の早期発見・対処が健康寿命の延伸のカギとなる」といった考え方のもと、健診の実施促進などの施策を打ち出している。だが、当事者の考え方とはちょっとズレが生じている可能性もある。施策立案に際して当事者の声にもっと耳を傾けることが重要かもしれない。

参考: 厚生労働省「第17回中高年者縦断調査(中高年者の生活に関する継続調査)の概況」

2023.01.23

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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