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No.4350 2021年、平均寿命・余命ともに前年を下回る

● 平均寿命は男性0.09歳、女性0.14歳低下

 厚生労働省より、2021年の簡易生命表が公表された。主な年齢の平均余命や平均寿命・主要死因の年次推移などを示したものだ。それによれば、平均余命・平均寿命ともに前年(2020年)を下回った。平均余命の減少は10年ぶり。平均寿命は、男性で0.09歳、女性で0.14歳の減少となっている。

 こうした数字から連想されるのは、やはり新型コロナウイルス感染症の影響だろう。死因別の死亡確率(※)を示したデータのうち、65歳の人のケースを見ると、新型コロナウイルス感染症は、2020年が男性0.29%、女性0.20%で、2021年が男性1.21%、女性0.96%。重症化しやすいデルタ株が主流となった2021年の方が、確かに死亡確率は高くなっている。一方、死因となりやすいがん・脳血管疾患・心疾患では、同じく65歳で2020年よりも2021年の方が死亡確率は低下している。この点でも、新型コロナウイルス感染症の拡大が、平均寿命・余命を低下させたという見方はできそうだ。

● 新型コロナウイルス感染症の影響なのか?

 ただし、新型コロナウイルス感染症の死亡確率自体は、上記の通り1%前後に過ぎない。対して、他の死因を見てみるとがんでは男性27.55%、女性18.28%。脳血管疾患で男性6.84%、女性7.55%。心疾患で男性14.43%、女性16.75%という具合に数字上は極めて高い(いずれも2021年の65歳の数値)。この点から、新型コロナウイルス感染症の直接的な影響と言い切るのは難しいだろう。

 では、どのような要因が絡んでいるのか。ヒントは、2020年から2021年で死亡確率が増加した「老衰」だ。たとえば65歳では、男性で7.97%⇒8.25%、女性で19.08%⇒19.88%となっている。もちろん、老衰による死亡確率の上昇は、それだけ「老化による身体機能の衰え」が死亡に結びついているわけで、見方によっては「長寿の証」ととらえる向きもあるだろう。実際、老衰での死因確率の上昇は、今回の年次推移で取り上げられている2017年から一貫して右肩上がりとなっている。この数値だけを見れば、老衰での死因確率の上昇と平均寿命・余命の低下には関係性がないと思ってしまいそうだ。

 ただし、ここで注意したいのは医学的に「老衰」の定義が明確になっていないことだ。先に「老化による身体機能の衰え」と述べたが、それがなぜ、いつから起こるのかについては不明な点が多い。たとえば、年齢的にまだ初老の人の死因が「老衰」とされるケースもある。同じ年齢の人でも、さまざまな個人差が「老衰」の年齢を左右しているともいえる。

● 生活行動の制限がもたらした?余命低下

 ここで1つの仮説が浮かんでくる。それは、人口の高齢化による「老衰の増加」という中長期のトレンドの中に、コロナ禍での生活行動のさまざまな制限による「老化の進行」という要素がプラスされたという推測だ。確かに先の「老衰」による死亡確率の推移を見ると、コロナ禍前の2019年から、コロナ禍による行動制限が大きくなった2020年で上昇カーブが大きい。いわば、新型コロナウイルス感染症の間接的な影響が「老化」を早め、その長期化が2021年からの平均寿命・余命の低下に結びついたと考えることもできそうだ。

 今年の夏も、コロナ禍で重症化しやすい高齢者の外出制限などがうたわれている。そうした時代、感染症対策に加え、「老化とは何か」について医学的見地からの研究をさらに進めるべき時代に入ったといえる。

※ 死因別の死亡確率…ある年齢の者が将来どの死因で死亡するかを確率で表したもの。

参考:
厚生労働省
 「令和3年簡易生命表の概況」
 「1 主な年齢の平均余命」
 「参考資料3-1 死因別死亡確率の年次推移」

2022.08.29

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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