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No.4264 紹介状なしでの大病院受診 定額負担引き上げ

● 2016年度導入の定額負担。今回の見直し点

 厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)で、2022年度診療報酬改定の答申が行われた。新型コロナウイルス感染症対策など含め、多岐にわたる改定となったが、ここでは患者側の負担増の一つについて取り上げる。

 それは、紹介状なしで一定の病院を受診する場合の「定額負担」の見直しだ。この「定額負担」は、2016年度から導入されたもの。「定額負担」の徴収は病院側の義務で、その徴収の最低金額が国によって定められている。これにより、軽症患者が高度急性期を担うような病院に集中するのを避け、身近な診療所などとの住み分けを進めることが狙いだ。

 今回の見直しについて、患者側が押さえたいポイントは大きく分けて3つ。

 1つは、定額負担の金額が引き上げられること。2つめは、定額負担を求めないことができる「除外要件(※)」が整理されたこと。3つめは、定額負担を求める病院の範囲が拡大されたことだ。いずれも、2022年10月から施行となる。

※「除外要件」には、救急患者など「徴収を求めてはいけない要件」のほか、病院側が「定額負担を求めないことができる要件」がある。今回の見直しは後者となる。

● 初診で2,000円の引き上げ。患者影響は大

 1つめの「最低金額の引き上げ」だが、現在は初診で5,000円(歯科で3,000円)、再診で2,500円(歯科で1,500円)となっている。これが、2022年10月からは、初診で7,000円(歯科で5,000円)、再診で3,000円(歯科で1,900円)になる。初診では2,000円の引き上げとなるから、患者への影響は少なくない。

 ちなみに、2020年11月の医療保険部会で示されたデータでは、「外来患者全体に占める紹介状なしの患者割合」が、定額負担5,000円以上7,000円未満で45.5%に対し、7,000円以上になると3割台と低くなる。こうした状況を反映させた改定額と言える。

 注意したいのは、この最低額の改定とともに、「定額負担を求める患者」の診療について、医療機関側に診療報酬からの控除も行われるしくみだ。これにより、今回引き上げられた最低額よりも、患者に高い徴収額を求める医療機関がさらに増える可能性もある。

● その他、除外範囲の見直しなどの改定も

 2つめの「除外範囲」だが、現行では「自施設の他の診療科を受診している患者」などのほか、「その保険医療機関を直接受診する必要性を特に認めた患者」が対象となっている。今改定では、後者の「必要性を特に認めた患者」の状況にかかる規定があいまいな点に着目し、「急を要しない時間外の受診」など患者都合による受診については、除外を認めない旨を明確にした。また、前者の「自施設の他の診療科を受診している患者」については、初診に限り「院内紹介」が必要と改められた。

 3つめの「定額負担を求める病院の範囲」だが、これまでは特定機能病院および一般病床200床以上の地域医療支援病院について、「定額負担を求めること」が義務づけられていた(この他の一般病床200床以上の病院については、緊急その他のやむをえない事情がある場合に選定療養として「特別の料金を求めることができる」としている)。

 ここに新たに加わったのが、2021年の医療法改正で誕生した「紹介受診重点医療機関」だ。これは、たとえば「がん手術前後の診療」など、医療資源を重点的に活用する外来を担う基幹病院である。このうちの一般病床200床以上の病院が定額徴収義務化の対象となる。

 なお、以上の見直しについては、現場の医療関係者などからは懸念の声も上がっている。たとえば、厚労省が募るパブリックコメントでは、「開業医の少ない山間へき地における中核病院も対象になるため、患者負担が増え受診抑制につながり、重症化を招く」といった意見も見られる。特にコロナ禍という状況が加わる中、患者の受診動向にどのような影響を与えるのかを注視したい。

参考:
厚生労働省『令和4年度診療報酬改定について(第2 改定の概要 1.個別改定項目について)』
厚生労働省『「令和4年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するご意見の募集の結果について』

2022.03.14

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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