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No.4256 コロナ禍で根深い問題も?高齢者虐待の状況

● 介護従事者や家族による虐待の最新実態

 厚生労働省では、2006年度から毎年度、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」にもとづく実態調査(以下、高齢者虐待実態調査)を実施している。ここでいう虐待とは、身体に加えられる虐待(身体的虐待)だけでなく、心理的虐待や介護等放棄、経済的虐待など幅広く対象となる。

 調査結果は、大きく分けると「養介護施設従事者等(介護施設のほか在宅サービス従事者も含む)による虐待」、「養護者(高齢者の世話をしている家族、親族など)による虐待」それぞれについて、相談・通報があったケースと、それによって市町村が虐待と判断したケースなどをデータ化している。

 最新の調査結果は、2021年末に公表された2020(令和2)年度調査のもの。言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した時期のデータとなる。

● 介護従事者等による虐待は初の減少だが…

 まず、養介護施設従事者等による虐待だが、相談・通報件数は2,097件、虐待判断件数は595件。ともに、対前年度(2019年度)から7.6%程度減少している。

 この2つの数字がいずれも対前年度比で減少となるのは、調査が始まって以来初。

 それだけ「介護のプロによる虐待」が深刻化の一途をたどってきたわけだが、気になるのは「ここへきて減少した背景」だろう。直観的には、「コロナ禍でサービスが休止(あるいは利用控え)となったことが背景にあるのでは」と思われるかもしれない。しかし、主に減っているのは特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの施設・居住系。いずれも、コロナ禍で「施設閉鎖→入所・入居者退去」というケースはほとんどない。一方、サービス休止となりやすいホームヘルプやデイサービスでは、逆に増えている。

 ここから想定されるのは、「家族等による面会制限」の影響だ。つまり、本来虐待発見・通報者となりえる「施設外の目」が入りにくくなったことで、相談・通報件数が減り、判断件数の減少にもつながっているという仮説だ。

 仮にそうだとすると、水面下の実態が把握されていない可能性もある。2021年4月から、制度上で施設等での虐待防止の取組み強化が図られたが、職員による通報機能の底上げがますます重要になりそうだ。

● 家族等による虐待は過去最高。その背景

 一方、後者の養護者による虐待はどうなったか。こちらは、相談・通報件数が3万5,774件、判断件数が1万7,281件。いずれも過去最多を記録している。これも、先とは違った意味でコロナ禍による影響がうかがえる。

 たとえば、デイサービスやショートステイが休止・利用控えとなり、在宅における家族等の介護負担が増えたことが想定される。ここに外出自粛や行動制限などによる家族側のストレスの増加(あるいは、本人の認知症の悪化)などが加わることで、「つい手を上げてしまう」「声を荒げてしまう」といった状況につながりやすくなっている可能性がある。

 問題は、増加傾向の中でも「表に出ているのは氷山の一角」という恐れもあることだ。これまで、養護者等による虐待の相談・通報にもっとも多くかかわってきたのは、介護保険のケアマネジャー。ところが、感染対策の一環から利用者宅への訪問回数の緩和などが図られた。これにより、相談・通報者のトップは警察となった。警察が関与する時点では、事態はかなり深刻化していることが考えられる。つまり、その前段階の発見に至っていないケースも多いのではないかということだ。

 今回の調査結果には、実は根深い問題がいろいろ潜んでいることに注意したい。

参考:
厚生労働省「(資料1)令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」
厚生労働省「(資料2)令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)」

2022.03.01

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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