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No.4170 新型コロナ「原則自宅療養」の方針を再確認

● 新たな「患者療養の考え方」の具体像とは?

 新型コロナウイルス変異株の猛威によって重症者が急増し、全国規模で病床のひっ迫が生じている。この深刻な状況を受け、政府は新型コロナ患者に対する「自宅療養」を基本とする方針を示した。唐突に出された同方針が社会に大きな混乱をもたらした状況については、今さら記すこともないだろう。

 政府の方針を受け、8月3日に厚労省は自治体向けに「緊急的な患者療養の考え方」を発出した。だが、上記のような混乱を受け、2日後の5日に具体的な方針を追記している。その内容を改めて確認してみよう。

 まず今回の考え方の前提だが、「東京都など感染者急増地域において可能とする『新たな選択肢』」と位置づけている。言い換えれば、この考え方に沿った対応の選択は、「各自治体に委ねられたもの」ということになる。

● 入院・宿泊・自宅療養の対応順位が逆転

 そのうえで、「新たな選択肢」の採用前後の違いを整理すると以下のようになる。

①入院について
【採用前】 重症化リスクの高い者を中心に「原則」入院で対応
 ↓
【採用後】 重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、酸素投与が必要でなくても重症化リスクがある者に「重点化」。なお、最終的には医師の判断による。

②宿泊療養について
【採用前】 無症状・軽症患者は「原則」として宿泊療養施設で療養・健康管理
 ↓
【採用後】 家庭内感染のおそれや自宅療養ができない事情等がある場合に、適切に宿泊療養を「活用」

③自宅療養について
【採用前】 無症状・軽症患者のうち、やむを得ず宿泊療養を行えない者は、自宅療養で対応
 ↓
【採用後】 入院させる必要がある患者以外は、自宅療養を「基本」とする。

 こうしてみると、【採用前】は「入院(原則)」→「宿泊療養(一部原則)」→「自宅療養(例外)」という対応順位になっている。対して【採用後】は、「自宅療養(基本)」→「宿泊療養(一部例外)」→「入院(重症リスクがある者等に重点化)」という具合に対応順位の逆転が見られる。

 対応順位が逆転し、「自宅療養」を基本(原則)とするのであれば、この部分での健康管理と重症化リスクの把握がカギとなるのは明らかだ。したがって、病床・宿泊施設の確保への継続的な注力は当然として、上記の「自宅療養(一部例外となる宿泊療養含む)」への体制強化が新たに必要となってくる。

● 自宅療養者の急増に「対応」できるのか?

 この点について厚労省が示しているのが、以下のような取組みである。①パルスオキシメーターの配布、②往診・オンライン診療等の医療支援体制の確保、③入院への移行時の搬送手段の整備──という具合だ。さらに、改善後のHER-SYS(※)を導入したスマホ等、および自動音声応答システムを導入した自動電話等による健康管理を推進するとしている。

 ちなみに、②については診療報酬上の特例評価もプラスする。往診・訪問診療については1日あたり950点、訪問看護については1日あたり5,200円を加算するというものだ。

 ざっと見て、「果たして機能するのか」と思われる人もいるだろう。よく指摘されるのが、①を誰が実施するのか、自宅療養の急増時に配布が間に合うのかという点だ。②についても、夜間等のオンコール対応ができるだけの訪問人員確保には根強い疑問もある。

 いずれにしても、「見切り発車的であれ、この体制で行かなければならない」というほど医療が綱渡り状態であるとも言える。今回の通知は、その危機的状況を図らずも示すことになったと言っていいのかもしれない。

※HER-SYS: 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム。保健所、患者、療養施設のスタッフ等がスマホ等で健康状態などを報告すると、医療機関、保健所等が一元的に情報共有できる。
また、患者本人用ツールとして、My HER-SYSが提供されている。家族全員の健康管理もスマホ等で入力可能。

参考: 厚生労働省 事務連絡 令和3年8月3日「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方について(要請)」

2021.09.06

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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