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No.4162 介護職員、2025年までにあと+32万人必要

● 直近2023年度に向けては年間+5.5万人

 介護保険制度では、地域の介護サービスの必要量などについて、保険者となる全国市町村が3年ごとに計画を作成する。これを介護保険事業計画といい、2021年度から適用される計画は「第8期」となっている。

 この第8期介護保険事業計画で導き出された「これから先に必要となるサービス量」から、そのサービス運営のために求められる介護職員数の推計が厚労省から公表された。

 それによれば、第8期計画の最終年度となる2023年度には、約233万人となっている。2019年度の介護職員数が約211万人なので、そこから4年で+約22万人、年間あたり+5.5万人が必要となる計算だ。

 もう少し中長期的な視野で出された数字では、団塊世代が全員75歳以上を迎える2025年度には約243万人(2019年度から+約32万人、年間あたり+約5.3万人)。さらに団塊ジュニアの多くが65歳以上となる2040年度には、約280万人(同+約69万人、年間あたり+3.3万人)が必要としている。

 後になるほど増加ペースが低く見積もられているのは、2025年度以降から75歳以上の人口の伸びが落ち着くことによる。ただし、労働力人口も減少していく中では、介護職員の確保が決して楽になるわけではない。

● 直近の目標達成も厳しい!? 国の施策は?

 さて、直近となる2023年度までの「年間あたり+5.5万人」という数字だが、果たして実現できるのだろうか。実は、ここ数年介護職員数についての統計方法がたびたび変更になっているので、過去の実績データとの比較は難しい。あくまで統計方法が変更される前の参考値だが、2015~2019年度の介護職員数の伸びを見ると、年間4.25万人となっている。統計方法が異なるとはいえ、目標となる年間5.5万人と比べると厳しい数字だ。

 国は、2012年度に介護報酬上で介護職員の処遇改善を目的とした加算を設け、2015年度からたびたび上乗せを図ってきた。だが、実績データを見ると、これから先の介護職員確保に向けては足りないことが分かる。

 そこで、今年度から、国は介護人材の新規参入を促すための新たな施策を設けている。その1つが「介護分野就職支援金貸付事業」だ。これは、他業種で働いていた人などが介護分野に参入する場合、就業に必要な経費分(転居費用や通勤用の自転車・バイク等の費用など)を最大で20万円貸し付けるというもの。注目したいのは、介護分野に2年間継続従事すれば、返済が全額免除されることだ。

● 人材確保が困難な中での新施策の狙い

 ちなみに新型コロナ禍では、特にフリーランスなどの生計が厳しくなっている。厚労省は、こうした雇用保険が適用されない人にも無料での職業訓練や訓練期間中の生活費を給付するしくみ(職業訓練受講給付金)を設けている。介護分野でいえば介護職員初任者研修などが対象で、このしくみを活用したうえで、先の貸付事業につなげるスキームもある。

 だが、新型コロナ禍で全産業の有効求人倍率が低下する中、介護分野は依然高止まりの状況が続く(全産業と比較すると約3倍開きがある)。そうした中、厚労省は先の貸付事業について、「まず就業し、働きながら研修を受講する場合」でも対象とする通知を出した。サービス分野(介護保険施設など)によっては無資格でも就業できるので、そうしたケースでの人材確保を想定した踏み込みだ。

 果たして、これで冒頭に示した目標が達成されるのか。仮に現場に無資格・未経験の人材が一気に増えた場合、利用者側の不安は大きくならないか。社会の介護ニーズが高まる中で解決すべき課題はまだまだ多い。

参考: 厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」

2021.08.23

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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