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No.4143 自転車配達員も労災特別加入の対象へ

● 9月より改正の見込み

 6月18日、第98回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会が開催され、宅配代行業「ウーバーイーツ」などから受託している自転車配達員や、フリーランスで働くIT人材についても特別加入の対象とする労災保険法施行規則を改正する省令案要綱等の諮問に対し、妥当との答申がなされた。

 企業に雇用されない個人事業主は労災保険の適用にはならないが、特別加入の対象になれば保険料を自己負担することで業務中のケガや休業に対する補償を受けることができるようになる。今年の9月から運用が開始される見込みだ。今まで各団体から要望を受けていたこともあり一歩前進した形といえるが、まだまだ課題も多い。

● フリーランスの自転車配達員約9万人も対象に

 厚生労働省で公表されている資料によると、個人事業主フードデリバリープラットフォームサービスを開始した6社の登録者数の合計は、15万6,800人で、このうち自転車での配達員は7割程度の9万人くらいと推計される。実際にはサービスに複数登録している人もいるので正確な実数把握は困難であり、また直接雇用されている配達員も一定数おり、全体像を明確にすることは不可能だが、今後も個人事業主の配達員はさらに増加していくと思われる。

 実際にコロナ禍も重なって宅配事業の需要は拡大しており、働き方改革によりテレワークも進んでいることから、今後もデリバリー利用者はさらに増加していくことになるだろう。

 一方でフリーランスのIT人材は、約17万6,000~25万6,000人程度(一般社団法人ITフリーランス支援機構推計)とされている。この方たちはその働き方の特徴から長時間のデスクワークや不規則な生活リズムによる心筋梗塞や狭心症、腰痛、ヘルニア等の災害の事例が多いが、自転車配達員と違ってその危険度は低いので特別加入を希望する人がどれだけいるかは不明だ。

● 自転車配達員の保険料率は1.2%

 労災保険の特別加入制度は、対象となる個人事業主があらかじめ3,500~25,000円の範囲で「給付基礎日額」を自分で決め、保険料はこれに乗じる保険料率で決まることになっている。肝心の保険料率については、交通事故が多い自転車配達員(原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業)は1.2%に決定した。ちなみにITエンジニア(情報処理システムの設計等の情報処理に係る作業)は0.3%となっておりその差は大きい。

 参考までに今回の自転車配達業で給付基礎日額を1万円とした場合、支払う年間保険料は4万3,800円になる。保険料負担を嫌がって特別加入する人が少なければ制度として改善が必要になるだろう。

 労働者代表側の委員が「自転車配達員について、保険料負担は請負契約の中で安全経費として上乗せして、配達員が実質的に負担しなくてもよい仕組みにする考え方もあるのではないか」という意見をあげていたが、本来の目的のためにもこのあたりは今後検討してより良い仕組みをつくっていく必要があるだろう。

参照:厚生労働省「第98回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料」

2021.07.12

庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)

株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/