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No.4138 8月スタート、介護保険のさまざまな負担増

● 見直されるしくみは、大きく分けて3つ

 2021年8月から、介護保険を利用する際の費用負担にかかる見直しが行われる。サービス利用料の負担割合は据え置きだが、それ以外の部分での見直しで、利用者にとってはいずれも負担増となる。改めて確認したい。

 見直しの内容は以下の3つ。①介護サービスの利用料にかかる「月あたり自己負担限度額」の引き上げ。②介護保険施設入所時、およびショートステイ利用時の食費の負担限度額の引き上げ(食事の提供に要する平均的な費用〈基準費用額〉も引き上げに)。③介護保険施設での居住費・食費分の給付(補足給付という)を受ける際に、預貯金額等(有価証券なども含む)が勘案されるが、その適用ラインの見直し──となる。

● ①高額介護サービス費にかかる月負担上限額

 ①についてまず押さえておきたいのは、高額介護サービス費のしくみだ。介護保険でサービスを利用すると、利用者の所得状況によってサービス費用の1~3割が自己負担となる。この自己負担が月あたりで一定額以上になると、オーバーした分が還付される(要介護度ごとの支給限度額〈区分支給限度基準額〉を超えた部分の全額自己負担分は除く)。高額療養費の介護版と言っていいだろう。

 今回引き上げとなるのは、この高額介護サービス費の適用ラインとなる負担限度額だ。対象は、「課税所得380万円(年収約770万円)以上」の人。見直し前は、市町村民税課税世帯は一律で月あたり4万4,400円だったが、上記の所得ラインより上の人はさらに2区分され、それぞれに引き上げとなる。具体的には、以下の【図①】のようになる。

● ②施設・ショートステイでの「食費」の負担

 ②の食費の負担限度額だが、原則は介護給付の対象外(「基準費用額」をもとに利用者と施設側の契約で支払額が決まる)となっている(居住費も同様)。ただし、低所得者(世帯全員が住民税非課税+預貯金が一定額以下)については負担の上限額を設け、基準費用額との差額が補足給付として支給される。

 具体的な上限額については、同じ低所得者でも収入に応じた段階が設けられている。対象は1~3の所得段階だったが、このうちの第3段階区分が2分された。そのうえで、第2段階も含めて【図②】のように負担上限が引き上げられる。所得段階の細分化は、保険料負担の所得段階との整合性をとったもの。また、ショートステイの食費負担引き上げは、同じ在宅系サービスであるデイサービス・デイケアでの食費負担額との整合性をとったものだ。

● ③補足給付の適用要件となる預貯金の基準

 ③だが、先に述べたように補足給付の適用については、預貯金等も勘案される。もともとは、所得区分1~3段階で「単身で1,000万円以下、夫婦世帯で2,000万円以下」の場合が補足給付の対象となっていた。これが、今回の見直しでは2区分された第3段階(前項②の見直し参照)も含めて、3つの区分で新たな基準額が設定される。いずれも、見直し前から大幅な引き下げとなっている(【図③】参照)。

 このように、介護保険の利用者にとっては、今年度からの介護保険料の引き上げも含めて家計へのダメージは否定できない。もちろん、②については特例の減額措置や社会福祉法人等による利用者負担軽減制度があり(※)、③では預貯金が減少すれば補足給付の対象になる可能性もある。問題は、2024年度改定に向けて財務省等が「サービス利用料にかかる負担割合見直し」の議論への踏み込みを示唆していることだ。今回の見直しにとどまらず、その次にやってくる改革まで見すえる必要がある。

※ これらの負担軽減については、居住している市区町村にお尋ねください。

【参照】
食費の負担限度額が変わります(リーフレット)
高額介護サービス費の負担限度額が変わります(リーフレット)

2021.07.05

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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