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No.4122 新型コロナで、高齢者施設等への集中検査

● PCR検査や抗原検査を公費で頻回実施

 新型コロナウイルス感染症は、変異株を主流とした第4波が猛威をふるっている。国としては、クラスターが発生しやすく、かつ重症化リスクの高いポイントに対して、いかに早期発見・対処の重点化を図ることができるかが大きな命題の一つとなる。

 昨年末から現在に至るまで、厚労省が力を入れているポイントの一つが、「高齢者施設の従事者等への集中的検査」の実施だ。ひと言でいえば、クラスター発生リスクの高い高齢者施設の従事者等に対して、PCR検査や抗原検査を公費によって「定期的かつ頻回」に実施するというもの。これにより、クラスターリスクの早期発見を図り、重症化しやすい高齢者の感染防止につなげることが狙いだ。

 ちなみに、厚労省は、国内の感染拡大初期から34回(5月12日時点)にわたって「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(医療・公衆衛生分野の専門的・技術的事項について助言を受ける会合)」を開催している。ここでは、直近のクラスターの発生状況や感染者の感染経路に関するデータも上がっている(※)。

※ 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第31回~)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html

 それによれば、クラスター発生の施設内容ごとの割合では、昨年10月14日以降(高齢者および障がい者施設を含む)施設関連において一貫して5割近い数字となっている。また、世代別の感染経路ではおおむね「不明」が大半を占めるものの、80代以上になると「施設関連」が一気に増える(その分「家庭内感染」は他世代と比較して少なくなる)。いずれにしても、押さえ所は「重症化や死亡のリスクが高い世代が生活する施設」となる。

● 対象者や検査方法、頻度は自治体で異なる

 この「押さえ所」に注力したのが、先の集中的検査というわけだ。この集中的検査の実施に向け、厚労省は全国の都道府県・保健所設置市等に対して実施計画の策定を求めてきた。今年2月の時点では(当時の)緊急事態宣言の対象区域にとどまっていたが、3月には「その他の自治体」についても、地域の感染状況に応じた策定を求めるに至っている。

 もっとも、実施対象施設や対象者、検査方法、頻度などが統一されているわけではない。一部自治体では、介護保険施設やサービス付き高齢者向け住宅等に加え、デイサービスなども含めている。検査方法もPCR検査、抗原定量検査に加え、プール検体検査(複数の検体を混合して同時に検査する手法)などさまざまだ。対象者も、介護職員以外に事務職や運転手も含めているケースがある。頻度は、月1回から週1回までと差がある。

 地域の実情に応じて柔軟性を確保したわけだが、問題はそれでも実施施設数がなかなか伸びないことだ。国は、仮にこの集中検査で「陽性者」が出ても、他の検査対象者は濃厚接触者として取り扱わない(14日間の健康観察を要しない)旨を示しているが、それでも「現場の動揺や混乱」への懸念などが背景にあると思われる。

● 5月10日には再度「受検の働きかけ」要請

 こうした状況を受けて、厚労省は5月10日に「積極的な受検の働きかけ等」を要請する通知を発出した。対象施設に対するていねいな呼びかけ等の実施のほか、受検した施設名の(施設の同意を得たうえでの)自治体ホームページ上での公表なども促している。公表によって「クラスター防止に向けて前向きな施設」という印象を持たせる狙いがある。

 今後も高齢者施設でのクラスターリスクが懸念される中、国としては引き続き重点施策と位置づけたいところだろう。一方、ワクチン接種にも追われる自治体に、どこまで対応の余力があるかという点が課題となりそうだ。

2021.06.07

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。

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