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No.4040 新型コロナ再拡大の中での医療提供体制は?

● 新型コロナにより、医療計画や地域医療構想をめぐる環境が激変

 新型コロナウイルスの国内感染者数は、11月28日に2,684人となり、感染拡大後で最多となった。また、重症者数も12月1日時点で493人とこれも最多となっている。

 こうした中で気になるのが、病床のひっ迫だ。10月24日には改正政令が施行され、入院勧告・措置の対象者を65歳以上や一定の基礎疾患を有する者などに限定するなど、政府の対応も慌ただしくなっている。今後の感染拡大状況にもよるが、医療体制の整備に向けた国の取組みが気になるところだろう。

 厚労省では現在、「地域医療構想に関するWG」をはじめ、厚生科学審議会における「感染症部会」、社会保障審議会の「医療部会」など、各種検討の場でほぼ同時並行の議論が進められている。ここで、都道府県の策定する医療計画に「(新型コロナ感染症など)新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加したうえで、見直しを図ることが提案された。

 一方、(団塊世代が全員75歳以上となる)2025年をターゲットとした地域医療構想のあり方についても、「中長期的な状況は見通し」は変わっていないとしつつ、「感染拡大時の短期的な医療需要」については、「機動的に対応する」ことを前提とするといった方向性が示されている。

 地域医療構想といえば、昨年9月にWGが提示した資料が記憶に新しいだろう。急性期病床等を備える公立・公的等の医療機関に対し、再編統合などを視野に入れた具体的方針の再検証の要請を実名で示し、国会でも取り上げられるなど物議を醸した。この時の状況を考えれば、それからの1年でいかに環境が大きく変わったかが実感される。

● 公立・公的等医療機関が、実はコロナの主要受け皿に

 ちなみに、先のWGでは今年10月21日に興味深いデータが示された。新型コロナ患者の「受入可能医療機関および受入実績の有無」を示したものだ。それによれば、医療機関数は公立・公的等よりも民間の方が圧倒的に多いが、新型コロナ患者の受入可能医療機関数は前者の方が上回っている。受入実績を見ても、公立・公的等合わせて900近いのに対し、民間は380にとどまっている。つまり、昨年検証対象となった公立・公的等の医療機関が、新型コロナ患者の主たる受け皿となっているという傾向が垣間見えるわけだ。

 もちろん、その背景として地域での医療機関の役割が分担されているという構図もある。たとえば、北海道のA市立病院では、新型コロナ患者については主にA病院で診療し、それ以外の患者は同一医療圏内にあるB民間病院が診るという体制をとっている。救急患者の受入についても、A病院で新型コロナ患者に対応している間は、B病院に救急を引き受けてもらうという具合になっている。

 ただし、こうした体制を取るにしても、公立・公的病院が機能していることが大前提となる。そのための再編強化という見方もあるだろうが、新型コロナ感染が急拡大している現状下では、どうしても「採算度外視」とならざるを得ない状況も浮かぶ。そうした中で、これまでの地域医療構想のあり方でいいのかどうかは、今後大きな議論となりそうだ。

 さらに、病床だけを確保しても、それにともなう人材が確保できなければ意味はない。政府は2021年度の本予算だけでなく2020年度の第三次補正予算の編成を同時に進めているが、これからの医療のあり方を中長期的な視野で支えていくビジョンが求められそうだ。

参考: 厚生労働省「地域医療構想に関するワーキンググループ」
 第29回(2020年11月25日)資料 今後の地域医療構想に関する議論の整理(案)
 第27回2020年10月21日資料 新型コロナウイルス感染症を踏まえた地域医療構想の考え方について

2020.12.21

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント(第3版)』『[新版]介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』『認知症で使えるサービス・しくみ・お金のことがわかる本』(自由国民社)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帖』(翔泳社)など多数。

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目 次

はじめに
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧
Part1 地域福祉にかかる包括的な支援体制の整備
Part2 重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
Part3 重層的支援体制の実際の「流れ」について
Part4 地域福祉を担う社会福祉連携法人
Part5 認知症施策の総合的な推進
Part6 介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
Part7 有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
Part8 保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
Part9 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
Part10 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
巻末資料 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱