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No.3992 新型コロナ禍で医療・介護施設への一斉検査
~政府が新たな取組み方針を公表~

● 「症状の有無」にかかわらず検査が可能に

 「感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、その期間、医療機関、高齢者施設等に勤務する者、入院・入所者全員を対象に、いわば一斉・定期的な検査の実施を都道府県等に対して要請する」──8月28日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部は、「今後の取組み」として上記のような方針を示した。

 新型コロナ感染症については、持病のある人や高齢者など重症化リスクの高いケースへの対応は大きな課題の一つだ。実際、こうした高リスクケースの人々が集まる医療機関や介護施設においても、断続的なクラスターが発生している。重症者の急増を防ぎつつ、医療崩壊などを防ぐうえでも、「症状の有無」にかかわらずに検査が受けられる体制が強く求められてきた。

 もちろん、これ以前にも、「感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域」において、無症状であっても、「医療・介護施設等の職員や新規の入院・入所者への行政検査(※)を行うことは可能」という通知は出されていた。今回の方針は、「新規」の入院・入所者以外にも対象範囲を拡大したうえで、「行うことが可能」から「実施を要請する」という一歩踏み込んだ対応となったわけだ。

※ 行政検査…感染症法にもとづき、保健所が検体採取を行うことによる検査

● インフルエンザ期を迎える中での体制課題

 ただし、これを実施する場合の課題も少なくない。まず、今年の後半にかけては季節性インフルエンザの流行期を迎える。当然ながら、発熱等の症状を訴える者が大幅に増え、今回の取組み方針でも「検査や医療の需要の急増が見込まれる」と予想している。そうした中で、無症状の人までも検査を進めることが(政府は「検査体制の確保・拡充に取り組む」としているが)現実的に可能なのかということだ。

 また、介護施設等の入所者は、移動が困難なケースも多い。となれば、出張方式によって、施設内(場合によっては居室内)で検体採取を行うことも想定される。こうした実施が可能なことは、先の通知でも明記されている。そうなると、その施設のどこで(検体採取等を)行うのか、職員全員も対象となる場合に、出勤者の状況なども加味しながら、どのタイミングで行うのか──こうした点について、施設側と保健所や行政機関等の間での密接な連絡体制も欠かせない。

 当然ながら、受け入れる施設側の労力も大きくなる。検査対象であるというだけでは濃厚接触者とはならないが、それでも出張検査の受け入れとなれば、当日のシフトや業務の流れなどを見直す必要も出てくるだろう。こうした対応を含めて、今後「定期的」に行うとなれば、介護現場側の負担を介護報酬等でどのように評価するかという議論も生じることになる(感染症の防止にかかる運営基準上の取組みの見直しも視野に入ってくる)。

● 検査のすそ野拡大は歓迎すべきだが…

 いずれにしても、「新型コロナにかかる検査」が日常的になってくることで、医療・介護現場の状況も大きな変化が訪れるのは間違いない。ちなみに、冒頭の取組み方針では、「一定の高齢者(要介護者などを指すと思われる)や基礎疾患を有する者」について、「本人が希望する場合に国が支援するしくみを設ける」ことも示している。この場合、一人暮らし高齢者などを検査につなげる際の支援をどうするかということも議論の対象となるだろう。

 重症化リスクが高い人への検査が拡大されるのは歓迎すべきことだが、その実効性を担保するための体制確保などに向けては、新たな予算措置なども必要になりそうだ。

参考: 厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組(令和2年8月28日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)」

2020.09.23

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント(第3版)』『[新版]介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』『認知症で使えるサービス・しくみ・お金のことがわかる本』(自由国民社)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帖』(翔泳社)など多数。

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目 次

はじめに
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧
Part1 地域福祉にかかる包括的な支援体制の整備
Part2 重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
Part3 重層的支援体制の実際の「流れ」について
Part4 地域福祉を担う社会福祉連携法人
Part5 認知症施策の総合的な推進
Part6 介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
Part7 有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
Part8 保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
Part9 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
Part10 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
巻末資料 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱