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No.3990 元年度国税の滞納残高は21年連続減少の7,554億円

● 新規発生滞納額は10.0%減の5,528億円と4年連続で減少

 国税庁が公表した令和元年度租税滞納状況によると、今年3月末時点での法人税や消費税など国税の滞納残高が平成11年度以降21年連続で減少したことが明らかになった。新規発生滞納額は前年度に比べ10.0%減の5,528億円と4年連続で減少した上、整理済額が6,091億円(前年度比7.1%減)と新規発生滞納額を大きく上回ったため、今年3月末時点での滞納残高も6.9%減の7,554億円と21年連続で減少した。

 今年3月までの1年間(令和元年度)に発生した新規滞納額は、最も新規滞納発生額の多かった平成4年度(1兆8,903億円)の約29%まで減少。また、滞納発生割合(新規発生滞納額/徴収決定済額(61兆7,896億円))は0.9%となり、平成16年度以降、16年連続で2%を下回って、国税庁発足以来、最も低い割合となっている。この結果、滞納残高はピークの平成10年度(2兆8,149億円)の約27%まで減少した。

 税目別にみると、消費税は、新規発生滞納額が前年度比9.0%減の3,202億円と4年連続で減少したが、税目別では15年連続で最多、全体の約58%を占める。一方で、整理済額が3,438億円と上回ったため、滞納残高は8.1%減の2,668億円と、20年連続で減少した。法人税は、新規発生滞納額が同9.7%増の765億円と3年連続で増加し、整理済額が738億円と下回ったため、滞納残高も2.9%増の946億円と2年連続で増加した。

● 元年度の滞納整理の訴訟提起は115件

 以上のように、今年3月末時点の滞納残高は前年度に比べて6.9%減の7,554億円と21年連続で減少したが、国税庁では、処理の進展が図られない滞納案件については、差押債権取立訴訟や詐害行為取消訴訟といった国が原告となる訴訟を提起したり、滞納処分免脱罪による告発を活用して、積極的に滞納整理に取り組んでいる。

 原告訴訟に関しては、令和元年度は115件の訴訟を提起。訴訟の内訳は、「供託金取立等」8件、「差押債権取立」7件、「その他(債権届出など)」97件のほか、特に悪質な事案で用いられる「名義変更・詐害行為」が3件。また、財産の隠ぺいなどにより滞納処分の執行を免れようとする悪質な滞納者に対しては、「滞納処分免脱罪」の告発を行うなど、特に厳正に対処。令和元年度は、9件(17人員)を告発している。

 上記の「詐害行為取消訴訟」は、国が、滞納者と第三者との間における債権者(国)を害する法律行為の効力を否定して、滞納者から離脱した財産をその第三者から取り戻して滞納者に復帰させるために行うもの。また、「名義変更訴訟」は、国税債権者である国が、国税債務者である滞納者に代わって、滞納者に帰属しながら滞納者の名義となっていない財産の名義を滞納者名義とすることを求めて提起するものだ。

● 悪質な滞納を滞納処分免脱罪で告発した事例

 悪質な滞納事例をみると、滞納処分の執行を免れるため、関連法人に事業を引き継いだように装い、運送代金を休業中の関連法人の預金口座に振り込むなどして財産を隠ぺいした行為について滞納処分免脱罪で告発した事例がある。運送業を営む滞納会社は、過去に源泉所得税等を滞納し、運送代金債権の差押えを受けたことがある。滞納会社は、一旦は滞納国税を完納したが、その後課税調査を受け、多額の法人税等の発生が見込まれた。

 滞納会社の実質経営者は、課税調査中から国税の納付に否定的な意見をしており、更正決定を受けた法人税等について再び滞納会社への差押えが行われないように、休業中の関連法人に事業を引き継いだように装って、取引先に対し、運送代金を関連法人名義の預金口座に振り込むように依頼。その結果、359回、計1億6,700万円が、その預金口座に振り込まれた。徴収職員は、滞納会社、その代表者及び実質経営者を滞納処分免脱罪で告発した。

参考: 「令和元年度租税滞納状況」

2020.09.14

浅野 宗玄(あさの・むねはる)

株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
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