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No.3986 一般的ではない遺言(特別の方式の遺言)について

● 死亡の危機に瀕したり、一般社会から孤立した場合に行われる

 FPのテキストなどでは、遺言についての説明の部分で、「主な遺言の方式として『自筆証書遺言』『公正証書遺言』『秘密証書遺言』がある」などと説明されている。「主な」ということは、他にも遺言の方式がある。それは民法で「特別の方式」として定められたもので、①死亡の危急に迫った者の遺言(民法第976条)、②伝染病隔離者の遺言(同977条)、③在船者の遺言(同978条)、④船舶遭難者の遺言(同979条)がある。

 これらは大きく2つに分けることができ、おおざっぱな言い方だが、死亡の危機に瀕した人が緊急の場合に行う遺言(①④)、一般社会から孤立した場所にいる人の遺言(②③)となる。

 テキスト等で「主な」とされている遺言と、それ以外の遺言はどれくらいの比率なのであろうか。わかる範囲で件数を調べてみる。なお、以下の数値で個別に出典を明記していないものは、「司法統計(平成30年度・家事事件)」による。また、以下の件数は出典ごとにいつの時点(遺言作成日か検認日かなど)かが異なっているため、単純に合計して遺言の総件数などを計算できるものではないことに注意する必要がある。

 まず、自筆証書遺言と秘密証書遺言の合計は「遺言の検認」の件数が17,487件、公正証書遺言が110,471件(日本公証人連合会「平成30年の遺言公正証書作成件数について」より)である。

● 死亡の危急に迫った者の遺言は、回復したら有効期限がある

 特別の方式の遺言については、①と④の方式について、遺言の日から20日以内に家庭裁判所に「遺言の確認」を申し立てなければならない。この件数が平成30年で123件である。ちなみに、統計のある昭和24年から平成30年まで、概ね90件から150件の範囲で推移している。自筆証書遺言・秘密証書遺言と比べて100分の1、公正証書遺言と比べて1.000分の1程度の件数である。テキストなどで説明が省略されるのも致し方ないところである。

 特別の方式の遺言のうち、①死亡の危急に迫った者の遺言の方法について解説する。自らの死に瀕した人が遺言をしたいと希望したときは、3人以上の証人の立会いの下、口述で行うことができる。その後、筆記が正確であることを証人が確認し、署名押印を行う。さらに、前述のように20日以内に家庭裁判所に「遺言の確認」を申し立てる必要がある。なお、遺言者が無事回復するなどして、通常の遺言ができるようになってから6カ月生存すると、特別の方式の遺言は効力を生じないことになる。

 FPが職務を行う上で、このような場面に立ち会うことはほぼ無いであろうが、特別の方式の遺言は自筆証書遺言などに比べても注意すべき点が多くあり、ほんの少しの手違いで無効となってしまう恐れが高い。そのため、可能な限り弁護士等の専門家の協力を依頼することが必要であろう。

2020.09.07
(セールス手帖社 田中一司)