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No.3984 年間死亡者、空前の150万人時代が到来へ
~多死社会を誰が支えるかという問題~

● 団塊世代が全員75歳以上となる2025年

 周知のことではあるが、2025年に、いわゆる団塊世代(戦後の第一次ベビーブーム世代)が全員75歳以上を迎える。国の推計では、この年に高齢化率(全人口に対する65歳以上の割合)も初めて3割に達するとされる。

 だが、着目したい点がもう一つある。やはり国の推計だが、この2025年に年間死亡者数が150万人前後に至ることだ。2000年時点(この年に介護保険制度がスタート)と比較すると、約1.5倍となる。では、そうした人々がどこで最期を迎えるか。近年は「ほとんど病院」が現実だが、実は2005年をピークとして「病院」が死亡場所となる割合は減少傾向にある。減少分をカバーしているのは、人口動態調査によれば「老人ホーム(有料老人ホームのほか、介護保険による特別養護老人ホームなども含む)」となっている。

 こう述べると、看取りに際しての支えが「医療から介護へ転換する」と思われがちだが、死期が近づいての容態急変に対応するとなれば医療は欠かせない。最期を迎える場所が「老人ホーム」であったとしても、実際はそこで訪問診療などを受けながらという形になる。正しくは「病院での医療」から「病院外での介護と医療の連携」という流れになるわけだ。

● 多死社会の「看取り」を支える人材が不足

 この流れが続くとして、一つの問題が浮上する。それは、2000年当時と2025年を比較した場合、15~64歳といういわゆる「生産年齢人口」が約17%も減少することだ。一方で、65歳以上は約67%増。つまり、看取りを含めた高齢者の医療や介護に対し、財源となる社会保険料や税金を負担する層だけでなく、現場で実際に医療や介護を担う人々が相対的に減少の一途をたどることになる。

 そうなれば、新たな「看取り」の受け皿となりつつある老人ホームも人手の問題が浮上する。特に介護保険施設などは、人員基準の定めからスペースはあっても定員を増やすことが難しくなっていく。結果として、「最期は家で」という割合が増える可能性が高まる。そこに訪問系の介護や医療を投入しつつ、「家での看取り」を進めるケースが増えるわけだ。

 問題は、訪問を担う人材も限られることで、夜間等の訪問頻度も増やすのが難しいという状況だ。「いよいよ」という看取りのタイミングを除けば、本人のそばにいるのはおおむね家族だけとなる。だが、核家族化にともなって、「その家族がいない」というケースも増える。仮にそうしたケースを優先的に老人ホーム等へ移すとして、なおも残るのが「家族がいても、やはり高齢化している」現実だ。

● プロの支え手は減少、家族も高齢化の中で

 厚労省は、毎年社会保障施策の基本データとなる国民生活基礎調査を実施している。その中で、3年に1度「介護の状況」も調査項目となっている。今年7月、最新となる2019年の調査が公表されたが、今回は「介護の状況」調査も含まれている。それによれば、要介護者等と同居の主な介護者の「年齢組み合わせ」別の割合は、75歳以上同士が33.1%となった。これは前回3年前から3ポイントの上昇、介護保険スタート直後の2001年と比較すると14ポイント以上も高くなっている。

 この「共に75歳以上」の傾向がさらに進み、ここに「家での看取り」増が加わった場合、家族にかかる心身の負担が深刻化せざるをえない。国は医療・介護の訪問人員減に対応するべく、ICT等による業務効率化を進めようとしているが、そうなると看取り期の風景も大きく変わりそうだ。通信技術を使い、映像やバイタルデータでの確認を通じ家での看取りをマネジメントしていく──そんな時代が間もなく到来するのかもしれない。

参考: 第177回社会保障審議会(介護給付費分科会)2020年6月1日 資料3「令和3年度介護報酬改定に向けて(地域包括ケアシステムの推進)」

2020.09.07

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント(第3版)』『[新版]介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』『認知症で使えるサービス・しくみ・お金のことがわかる本』(自由国民社)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帖』(翔泳社)など多数。

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目 次

はじめに
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧
Part1 地域福祉にかかる包括的な支援体制の整備
Part2 重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
Part3 重層的支援体制の実際の「流れ」について
Part4 地域福祉を担う社会福祉連携法人
Part5 認知症施策の総合的な推進
Part6 介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
Part7 有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
Part8 保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
Part9 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
Part10 介護保険等情報をめぐるしくみの充実
巻末資料 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱