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No.3977 新型コロナ関連の労災認定の取り扱い

● 新型コロナウイルスに関する相談が増えている

 新型コロナウイルスの感染者数は、緊急事態宣言解除後以来、再び増加に転じている。事業主や人事担当者の中には、感染した従業員の方から「労災の対象になるのか」という相談が実際に上がってきており、その対応に苦慮されているケースもあるようだ。

 医療従事者以外の方から、新型コロナウイルスによる労災申請も徐々に増えていることから、今回は新型コロナウイルスに感染したときの労災補償に関しての基本的な考え方を押さえておくこととする。

● 医療従事者等以外でも労災の可能性あり

 厚生労働省は、令和2年4月28日に「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」という通知を出しており、どのような時に新型コロナウイルスの感染が労災と認められるのかについて下記のとおり案内を出している。

(1)国内の場合
ア 医療従事者等
 医師、看護師、介護従事者等は、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災の対象になる。
イ 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
 感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災の対象となる。
ウ 医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの
 調査により感染経路が特定されない場合であっても、複数の感染者が確認された労働環境下での業務、顧客等との近接・接触の機会が多い労働環境下での業務など、感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときは、業務により感染した蓋然性が高いので、個々の事案に即して適切に判断する。その際は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況等の調査に加えて、医学専門家の意見も踏まえて判断する。

(2)海外出張労働者
 出張先の国において多数の感染者がおり、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、労災保険の対象となる可能性が高い。
 (海外派遣特別加入者については国内労働者に準じて判断)

● 最終的には労働基準監督署が決定

 いずれの場合も、労災保険給付の対象となるか否かについては、労働基準監督署の判断となるので、会社側が「あなたの状況では労災には該当しない」などと断言することのないように注意したい。今後、実際に従業員から新型コロナウイルス関連の労災保険給付の請求を希望すると言われたら、上記の通知を踏まえて従業員からのヒアリングをしっかり行い、慎重な対応を心掛けるようにしていただきたい。

医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない場合の事例

 小売店販売員のGさんは、店頭での接客業務等に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。

 労働基準監督署において調査したところ、Gさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間の業務内容については、日々数十人と接客し商品説明等を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。

 一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物や散歩などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。

 医学専門家からは、接客中の飛沫感染や接触感染が考えられるなど、当該販売員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。

 以上の経過から、Gさんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、顧客との近接や接触が多い労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。

<厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」より>

参照:
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」

2020.08.24

庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)

株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/