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No.3972 介護の月負担上限額が来年にも引き上げ!?
~2017年引き上げ時の激変緩和も終了~

● そもそも月あたり負担上限額とは何か?

 7月1日に厚労省から「高額介護(予防含む。以下同)サービス費にかかる激変緩和措置の終了について」という通知が発せられた。2017年8月に、高額介護サービス費にかかる「所得区分が一般区分となる世帯」の月負担上限額が引き上げられたが、ここに3年間の激変緩和措置が講じられている。それが2020年7月31日に終了するという通知だ。

 これを説明する前に、改めて高額介護サービス費について確認しておこう。介護保険サービスを利用すると、サービス費用の1~3割を利用者が負担する(65歳以上の利用者は収入によって2、3割負担となる。自己負担を除いた分が保険給付となる)。ただし、この利用者負担については、世帯所得によって月あたり上限額が定められている。これをオーバーした分については、高額介護サービス費として還付される。このあたりは、医療保険の高額療養費のしくみと同じである。

● 2017年の一般区分引き上げと緩和措置

 さて、負担上限額のうち、先に述べたように「一般区分」が2017年8月から引き上げとなった。具体的には、それまで月3万7,200円だったものが4万4,400円となり、「現役並み所得相当」と同額になっている。この場合の「現役並み所得相当」とは、世帯内の65歳以上の人の年収合計が520万円(単身世帯の場合は383万円)以上となる。「一般区分」というのは、所得水準がそれ未満であり、かつ市町村民税課税世帯を指す。

 ちなみに、1割負担となる収入水準は年金収入280万円未満(世帯構成者が全員65歳以上の場合、当人が280万円以上でも他の65歳以上の人との合算額によっては1割となるケースもあり)。そうなると、上限額が引き上げられた「一般区分」の場合、市町村民税が課税される水準とはいえ、世帯構成員の状況によって負担感に差が生じやすい。たとえば、一人暮らしや高齢者夫婦世帯で全員が1割負担の収入区分であれば、「現役並み所得水準」と同額の上限額は大きな負担となりかねない。そこで、冒頭で述べた3年間の激変緩和措置が設けられたわけだ。その内容は、年間で44万6,400円の負担上限額を別に設けたことだ。これは改定前の3万7,200円の12か月分の金額となる。

● 次は「現役並み所得相当」区分の見直しへ

 ところで、これが終了するとなると、「不公平感をなくすための追加措置が出てくる可能性」は容易に想像できるだろう。「一般区分」の緩和措置を終了したうえでの不公平感解消という点では、当然「現役並み所得相当」の区分の上限額引き上げが思い浮かぶはず。実際、国はこの見直しを進めようとしている。

 現在、固まっている見直し案は、「現役並み所得相当」の区分を所得水準によってさらに3分割し、以下のようにするというものだ。

<現行>

収入要件 世帯の上限額
現役並み所得相当(年収約383万円以上) 44,400円

<見直し後>

収入要件 世帯の上限額
年収約1,160万円以上 140,100円
年収約770万円~約1,160万円未満 93,000円
年収約383万円~約770万円未満 44,400円(据え置き)

※ 一般区分や市町村民税世帯非課税者等の負担限度額は変更なし

 この見直し後の区分は、高額療養費の区分と同じである。つまり、介護保険の負担のしくみを医療保険の負担のしくみに揃えようという流れの延長にある改革と言える。これがいつからの実施になるのかは、新型コロナ等の影響もあってまだ明確になっていない。恐らくは、介護報酬等の改定が行われる2021年からとなる可能性が高い。今後の厚労省からの告知に注意したい点の一つである。

2020.08.17

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第2章 【応用編①】対医療連携で医師を振り向かせるにはどうしたらいいのか
  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題