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No.3914 要介護者へのマスク配布はどうなっている? 
~新型コロナで介護現場への対処を整理~

● 介護施設等にはすでに布製マスクを配布

 新型コロナウイルスの感染者・重症者が都市部を中心に急増し、感染防止策の一つであるマスク不足も依然として深刻な状況にある。政府は、感染防止策の一つとして全戸に布マスク配布を行う方針を示したが、国民の反応はあまりよろしくない。「布マスク」自体の感染対策効果への評価もまちまちだ(WHOなどは「推奨しない」としている)。

 だが、この「布マスク」、実は(重症化リスクの高い高齢者が対象となる)介護現場への配布はすでに行われている。具体的にどのように配布されているか、そもそも介護現場への対処はどうなっているのかを整理してみよう。

 3月10日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が取りまとめた「緊急対応策」(第2弾)では、①再利用可能な布製マスクを国が2,000万枚購入すること、②このマスクを介護施設等(サ高住などの高齢者向け住まい、障がい者施設、保育所含む)に配布することが示されている。これを各施設等の職員・利用者に1人1枚は行き渡るようにするというものだ。必要枚数については、たとえば介護報酬データをもとに自治体の協力を得ながら把握するしくみとなっている。

 ちなみに、「再利用可能」というのは、衣料用洗剤による押し洗い(1日1回程度を推奨)で再利用が可能となるという意味だ。こうした洗濯による複数回の再利用については、品質上問題ないと厚労省も明記している。(先の全戸配布の方針も、「再利用」というメリットを前面に出したいという思惑があったと思われる)

 では、具体的にどうやって配布するのか。ここでは介護関連の施設等を例にとる。入居の住まい・入所施設(小規模多機能型サービス事業所も含む)に関しては、それぞれの施設等にまとめて配布し、それぞれの現場で職員と高齢者に配布するしくみとなっている。問題は、自分の家を中心として受けている訪問・通所系サービスの利用者への配布だ。

● 誰が「配布」するかで、さまざまな課題も

 たとえば通所系サービス(デイサービスなど)の場合、感染拡大が著しい地域などでは自治体の要請や事業所の自主的判断によって、すでにサービス停止状態が続いている。こうしたケースに対し、厚労省は特例として「通い」の代わりに「職員による訪問」というサービス切り替えを認め、サービスに携わる職員の人員基準等も柔軟に緩和するという通知も出している。ただし、仮に職員が訪問すれば「利用者へのマスク配布」は可能だが、すべての事業所が対応できるわけではない。職員の中にも、自分の子どもの学校の休校などで「休まざるを得ない」ケースもあるからだ。

 そこで、訪問・通所系サービスについては、担当するケアマネジャーの居宅介護支援事業所にマスクを配布し、そこから利用者に配布されるというしくみがとられている(職員については、各サービス事業所経由で配布)。介護予防サービスを利用している人については、担当が地域包括支援センターとなるので、そこからの配布ということになる。

 だが、従事者が厳しい状況に置かれているのは、ケアマネジャーも変わりはない。仮に担当者が発熱等の感染症の兆候を示せば、自宅待機などの対処がとられるわけで「戸別訪問による配布」も難しくなるだろう。ちなみに、冒頭で述べた「全戸配布」は郵送が想定されているが、郵送で全戸に行き渡るのかという疑問の声もある。独居高齢者宅などは、安否確認も含めて「戸別訪問」の必要性も想定される。そうなると、「全戸へのマスク配布」という追加施策でも課題となりそうだ。

 なお、こうしたマスク配布にかかる現場レベルでの混乱等を想定し、国は3月26日から「布製マスクの配布に関する電話相談窓口」もスタートさせた。たとえば、「マスクが届いていない」旨の相談についても、4月11日から同電話相談で対応するという。都市部の感染爆発なども憂慮される中、少なくとも「マスク不足」に対する安心が確保できるのかどうか。追加的な施策の動向などとともに、丹念にチェックすることが必要になる。

※この記事は4月2日現在の情報等に基づいています。

2020.04.20

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題