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No.3908 相続の限定承認~わずかな利用件数~

 相続が発生した場合、相続人は相続を承認するか、あるいは相続を放棄するかを選択することができる。また、相続の承認には、金銭や土地などのプラスの財産、債務などのマイナスの財産のいずれも受け継ぐ単純承認と、相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認がある。

 一般的な解説書などでは、「プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合は、限定承認を利用するとよい」などと説明されている。しかし、実際に限定承認がどの程度利用されているかを見てみると下記の表の通りである。

 家庭裁判所が相続の放棄の申述を受理した件数が近年で10万件台後半から20万件台前半なのに対し、限定承認の申述は概ね800件前後である。相続を単純承認した場合は裁判所への申述を要さないため、限定承認の割合は極めて小さいものとなる。

  1995年 2005年 2015年 2016年 2017年 2018年
相続の放棄の申述の受理(件) 62,603 149,375 189,296 197,656 205,909 215,320
相続の限定承認の申述受理(件) 658 995 759 753 722 709

出典: 司法統計(平成30年度)「家事審判・調停事件の事件別新受件数-全家庭裁判所」(最高裁判所)

 なぜ限定承認はほとんど利用されていないのか。一つめは、手続きの煩雑さにある。

 限定承認をする場合、相続人全員で家庭裁判所に申述する必要がある。つまり、相続人の中に限定承認に反対で単純承認を望む人がいる場合、その人を説得しなければならない。(限定承認に反対で、相続放棄を望む相続人がいる場合は、その相続人は単独で相続放棄ができるため、相続放棄の手続きをしてもらえば、残った相続人で手続きを進めることができる。)

 その後、必要に応じて相続財産管理人を選任し、相続債権者・受遺者への公告・催告(民法927条)を行った後、相続財産の中から債務者へ弁済するなどする。そのうえで、残った財産があれば相続人間で分割することとなる。相続財産に金銭や有価証券以外のもの、例えば不動産などがある場合、競売を行うなど非常に複雑な手続きがある。

 また、もう一つ注意すべき点として税務上の問題がある。通常の相続では相続人に相続税が課されることがあるだけだが、限定承認の場合、不動産などに対し、時価で譲渡が行われたものとして譲渡所得税が課される。そのため、相続財産が相続税の基礎控除の範囲内であっても税負担が生じることがある。

 まとめると、手続きの煩雑さと税務上のデメリットがあるため、限定承認はほとんど利用されていない。相続人自身で手続きを行うことは現実的ではなく、弁護士や税理士などの専門家に依頼する必要性が高い。FPとして、相続、特に限定承認についてアドバイスを行う場合、これらの点に留意した説明が必要であることに注意したい。

2020.04.06
(セールス手帖社 田中一司)