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No.3906 介護保険法等の改正案、今国会に提出 
~地域共生社会理念で既存制度も変わる?~

● そもそも地域共生社会とは何か?

 新型コロナウイルス対策にかかる特措法成立などが注目される今国会だが、国民の生活に深くかかわるという点では、その他にもいくつかの法案の審議が進んでいる。その一つが、地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案(以下、地域共生社会実現法)だ。「社会福祉法等」となっているが、この「等」の中には、介護保険法や老人福祉法なども含まれている。

 そもそも、この法律案のタイトルを飾る「地域共生社会」とは何か。これは、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」で示された施策方針だ。そこでは、子ども・障害者・高齢者などすべての人々が、地域・暮らし・生きがいを共に創り、高め合うことができる社会と位置づけている。こうした社会の実現に向けては、たとえば福祉や介護の分野においても、「支え手側」と「受け手側」に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合うというしくみがカギとなる。もちろん、専門性が必要な分野については、地域住民と専門職・専門機関によるサービスなどとの協働も想定されている。

 だが、こうしたしくみを実際に機能させるとなれば、上記の「協働」のしくみなどを機能させる環境整備が必要となる。日常的に地域住民同士の見守りや介護予防活動などが機能していても、そこに参加したり支え合いの対象となる住民には、常に多様な生活課題がつきまとう。たとえば、本人が認知症になったり、貧困や子育てなど、さまざまな地域の課題がリンクしてくることもある。その時点で、適切に専門職・専門機関につないでいくための環境が整っていないと、住民同士の支え合い機能も途切れてしまいやすい。

● 重層的支援体制という新たな市町村事業

 そこで必要になるのが、制度ごと(介護保険法や子ども・子育て支援法、生活困窮者自立支援法など)の支援の縦割りを解消し、支え合いの場で地域住民等が直面した課題がきちんと解決に向かうような道筋だ。これを重層的支援体制といい、今法案の社会福祉法において市町村が取り組むことのできる新たな事業として明確に位置づけている。また、そのための交付金なども設定されている。

 ただし、こうした新たなしくみについて、任意事業の時点で市町村がどこまで前向きに踏み込めるのかが問題となる。また、介護保険のサービス現場なども、地域住民の支え合いとの連携をいかに図るかという点で、ノウハウの蓄積はまだ道半ばというのが実情だ。

 サービス現場の視点でいえば、ポイントとなるのが2021年度に予定される省令改正による介護報酬や基準の改定である。介護保険制度にかかる審議会では、たとえば、自立や要支援の認定を受けた人が使っている介護保険財源を使った住民主体などのサービスについて、要介護になっても途切れなく使えるようなしくみが提案されている。また、政府の認知症施策推進大綱では、地域住民等を対象として養成が進む認知症サポーターについて、具体的な支援へとつなぐためのしくみ(チーム・オレンジ)が示されている。こうした地域住民等の支え合い機能に対して、介護サービス側をしっかり連携させるために報酬・基準が大幅に改定される可能性が高いといえる。

 今回の法案は、端的に言って「介護等の社会保障の何がどう変わるのか」は分かりにくい。だが、各種制度の今後の動きを読み込んでいくと、わが国の社会保障制度が根本から変わっていく入口となるのかもしれない。

2020.04.06

田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『〈イラスト図解〉後悔しない介護サービスの選び方【10のポイント】』『介護リーダーの問題解決マップ -ズバリ解決「現場の困ったQ&A」ノート -』(以上、共にぱる出版刊)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント』(自由国民社刊)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帳』(翔泳社刊)など多数。

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目 次

  • 第1章 【基本編】多職種連携は、なぜうまくいかないのか?
  • 第2章 【応用編①】対医療連携で医師を振り向かせるにはどうしたらいいのか
  • 第3章 【応用編②】対看護・保健連携で相手の得意エリアをつかみとるポイント
  • 第4章 【応用編③】対リハビリ職との連携では自立支援・重度化防止がカギとなる
  • 第5章 【応用編④】栄養と口腔ケアにかかわる専門職との連携のポイント
  • 第6章 【応用編⑤】対行政・包括等との連携では複雑化した課題解決をめざす
  • 第7章 【応用編⑥】「共生社会」をめざす連携で生まれる介護現場の新たな課題