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No.3869 割増賃金、ちゃんと適正額を払っていますか?

● 意外と知らない割増賃金の基礎単価

 企業等の使用者が、時間外労働、休日労働、深夜労働を労働者に行わせた場合、法令で定める割増率以上の率で算定した「割増賃金」を支払わなければならない。法律を遵守して割増賃金を支払ったつもりであっても、割増賃金の基礎となる賃金単価が間違ったまま計算していたらちょっとしたトラブルになることも考えられる。今まで割増賃金の基礎単価について深く考えたこともない経営者・経理担当者が多いかもしれないため、今回は割増賃金の基礎となる賃金について基本的事項を確認することとする。

● 割増賃金の基礎となる単価は基本給だけ?

 さて、割増賃金の基礎となる賃金は、原則として所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」であり、これは基本給だけではなく、すべての手当等を含めた「月の所定賃金額」を基に算出するが、例外的に割増賃金の基礎となる賃金から除外できる手当が定められている。

 割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものは以下の1~7のみである。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 以上の7つは、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることから除外できるが、これらに該当しない賃金はすべて算入しなければならない。除外することができない賃金・手当にもかかわらず、計算に含めないで割増賃金単価を低く設定しているケースを見かけることがあるが、単なる間違いであればただちに直さなければならない。

 もしも割増賃金の基礎単価が間違っていれば、過去に支払った割増賃金の不足額を遡及して支払わなければならないことも覚えておきたい。

 また、上記の手当が支払われていた場合であっても、実際にこれらの手当を除外するにあたっては、単に名称によるものでなく、その実質によって取り扱うべきものとされている。したがって住宅手当と称していてもその実態が、住宅に要する費用に応じて算定されていない手当であれば、それは当然含めることはできない。

● 役職手当も皆勤手当も含む

 割増賃金の基礎となる賃金から除外できるのは上記のとおり限定されているので、当然ながら役職手当や営業手当、皆勤手当も含めないといけない。そのため毎月単価が変わる可能性があり、実務面では面倒ではあるが、基本を理解して給与ソフトの設定をしっかりすれば問題はないと思われる。

 最後に、家族手当を支払っているケースにおいて、扶養家族の人数に関係なく一律1万円というような場合は、割増賃金の基礎となる賃金から除外することができないので注意が必要である。

 社内で給与計算を行っている中小企業の場合、前任者から引き継いだだけで割増賃金についてあまり深く意識してこなかった担当者が多いというのが現状である。従業員から間違いを指摘される前にチェックしてみるのが望ましい。

割増賃金額=1時間当たりの賃金額※1×時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数×割増賃金率※2
※1: 1時間当たりの賃金額(月給制の場合)=月の所定の賃金額÷1カ月の(平均)所定労働時間数
※2: 割増賃金率=時間外労働は2割5分以上、休日労働は3割5分以上、深夜労働は2割5分以上、その他にも細かな規定あり。

参照: 厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」

2020.01.27

庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)

株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/