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生保税務 個人編

取引相場のない株式等に係る贈与税の納税猶予制度

Q:取引相場のない株式等に係る贈与税の納税猶予制度とはどのような内容のものですか。

A:中小企業の経営の承継において、後継者が先代経営者から自社株を一括贈与された際に発生する贈与税額の一定割合について、定められた要件を満たす場合に納税を猶予するという内容です(2009年(平成21年)4月1日以降の贈与を対象)。中小企業の円滑な経営の承継を実現するために設けられた制度です。
(注)以下の記載内容は、「取引相場のない株式等に係る贈与税の納税猶予制度」の一般規定に基づくものであり、特例の内容については「事業承継税制の特例」を参照。

「取引相場のない株式等に係る贈与税の納税猶予制度(以後、「贈与税の納税猶予制度」)」とは、一括贈与によって後継者が先代経営者から自社株を取得した場合、発行済株式総数の3分の2を上限に、後継者が納付すべき贈与税額の全額について納税を猶予するというもので、平成21年度税制改正により新たに設けられました。

この制度の適用の対象となるのは、上述の通り「発行済株式総数の3分の2」に達するまでの部分に限られ「猶予対象株式」と呼ばれます。この猶予対象株式は既に後継者が保有している自社株を含めて発行済株式総数の3分の2に達するまでの部分であり、その範囲を上限として一括贈与によって取得した自社株に係る贈与税額の全額が納税猶予となります。
なお、先代経営者は、保有するすべての自社株を贈与する必要はなく、贈与によって後継者の保有株式数が発行済株式総数の3分の2以上となるよう一括贈与すれば構いません。


■「贈与税の納税猶予制度」適用のための認定要件

以下の認定要件について経済産業大臣の認定を得ることにより適用可能となります 相続税の納税猶予制度の場合とほとんど同様の要件ですが、経営者の要件、後継者の要件、猶予税額の免除要件において独自の項目が追加されています。

  1. 経営者(先代経営者)の要件
    ・ 同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有していたこと
  2. ・ 代表者を辞任すること(贈与税の納税猶予制度における独自要件)
  3. 後継者の要件
    ・ 会社の代表者であること
    ・ 18歳以上であり、かつ、役員就任から3年以上経過していること(贈与税の納税猶予制度における独自要件)
    ・ 後継者と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超を保有し、かつ同族内で筆頭株主となること
  4. 会社(認定対象会社)の要件
    ・ 経営承継円滑化法で定める「中小企業者」であること(特例有限会社、持分会社も対象。医療法人は対象外)
    ・ 非上場会社であること
    ・ 資産管理会社に該当しないこと
    ・ 風俗営業会社に該当しないこと

■納税猶予継続のための要件

認定後5年間において納税猶予制度適用のための認定要件、および事業継続要件を満たせなくなった時点で納税の猶予が打ち切られ、猶予税額および法定申告期限に遡っての利子税を一括して納付しなければなりません。また、5年経過後も下記の要件を満たすことが必要です。

  1. 認定後5年間における事業継続要件
    ・ (後継者が)代表者であること
    ・ 雇用の8割以上を維持すること(5年間の平均)
    ・ 対象株式を継続保有していること
  2. 5年経過後の要件
    ・ 納税猶予の対象となる株式を譲渡した場合、その割合に応じて納税猶予が打ち切られる
    (経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)の経過後に納税猶予税額を納付する場合、当該期間中の利子税は免除される。5年経過後においては納税猶予の対象となる株式を継続保有すれば納税猶予も継続される)

■猶予税額の免除要件

納税猶予された税額については、以下の場合に納税が免除されます。

  1. 認定後5年以内
    ・ 後継者(自社株の贈与を受けた後継者)が贈与された対象株式を継続保有したままで死亡した場合
    ・ 先代経営者(自社株の贈与した前経営者)が死亡した場合(贈与税の納税猶予制度における独自要件)*
  2. 5年経過後
    後継者が贈与された納税猶予の対象株式を継続保有をしていて、以下の場合には猶予税額が納税免除される
    ・ 後継者が死亡した場合
    ・ 会社が破産または特別清算した場合
    ・ 対象株式の時価が猶予税額を下回る中、その株式の譲渡を行った場合(ただし、時価を超える猶予税額のみの免除)
    ・ 先代経営者(自社株を贈与した前経営者)が死亡した場合(贈与税の納税猶予制度における独自要件)*
    * 先代経営者が死亡の場合、先代経営者から後継者に相続があったものとみなされ相続税が課されます(贈与を受けた時点での評価額により税額が計算される)。また、この相続税については必要な要件を満たすことにより「相続税の納税猶予」を適用することも可能です。

■相続時精算課税制度の適用について

当制度の要件を満たしたうえで、贈与者要件(贈与の年の1月1日現在60歳以上の両親または祖父母)および受贈者要件(贈与の年の1月1日現在18歳以上の子または孫)を満たす場合、相続時精算課税制度による贈与税額についても納税猶予の対象とすることができます。

■「相続税の納税猶予制度」と「贈与税の納税猶予制度」を連続して活用する方法

納税猶予制度について、相続税と贈与税についての取扱いが定められたことにより、何代にもわたって連続して「納税猶予制度」をうまく活用して事業承継を繰り返していくことも可能です。

上の図は三代にわたる事業承継を、納税猶予制度を活用して行った場合の一例です。
一代目の経営者が二代目経営者に自社株の一括贈与を行うことによって、贈与税の納税猶予が活用できますが、そのまま一代目の経営者が死亡すると納税猶予された贈与税が免除され、相続税が課税されることとなります。その際、要件を満たすことによって相続税の納税猶予を活用することも可能です。ただし、相続税の納税猶予であるため納税猶予となるのは80%相当額となります。
二代目経営者が三代目経営者に事業承継を行う場合に、自社株の一括贈与を行うことによって贈与税の納税猶予の適用が可能ですが、それと同時に二代目経営者が納税猶予されていた相続税についてはその時点で免除されることになります。このように、納税猶予制度を繰り返し活用しながら事業承継を何代にもわたって行う方法も可能となります。

2023.04.01 (栗原)